俺はある大学に6年いたんだが、
これはその5年目の話。

授業はほとんどなくてね。

就職活動が嫌でダラダラしてたんだが、
ずっと金欠なのにはまいった。

バイトはしてたよ。

便利屋の下請けみたいなこと。

そこの便利屋は退職したジイサン3人でやってたんだが、
体力のいる仕事の場合は、
俺を含め、つてのある大学生に回してきた。

不定期だったが時間だけはあった。

で、そのときのバイトというのが、
ある田舎の家の清掃だったんだ。

それと池さらい。

これがすごいバイト料がよくて、
2日間で5万。

ちょっと考えられないような額だろ。

このときに少し疑ってかかればよかったんだが・・・

メンバーは俺を含め3人、
それと便利屋のジイサンが一人監督でついてきた。

その人がハイエースを3時間運転して現地まで行ったんだよ。

時期は8月の終わりで、
大学はまだ夏休み中だった。

着いた先は、
まあ簡単にいえば廃村だな。

過疎が進んで人の住まなくなった村。

住所は言うのはひかえておくよ。

廃村といっても、
実際は年寄りが何世帯かはいたみたいだった。

話をする機会とかはなかったがね。

その村の小高い丘の上にある典型的な豪農の屋敷。

世が世なら庄屋とか名主の家柄なんだろう。

平屋だが20部屋近くあった。

庭も広くてな。

手入れされてない植木が雑草に埋まってたよ。

9時に向そこに着いて、
まず最初にやったのが池さらいだった。

家の縁側にそって
くの字に曲がった池があったんだ。

水は緑色に濁ってて、
生き物が住めそうには見えなかったな。

ジイサンは、

「ここは水抜き穴もあるし、
ポンプも持ってきてるけど、
このままだと詰まってしまってどうにもならないから、
これで大きなゴミをさらい出して」

そう言って、
かなり頑丈な柄つきの網を3本取り出した。

それで、さらったゴミは
木箱に詰めて持ち帰るっていう。

ジイサンの一人が、
夕方頃に木箱を別の車に積んで持ってくるってことだったんで、
それまでさらったものは、
池の脇の草の上に積み上げておくことにした。

でな、2人と1人にわかれて両端から池をさらい始めると、
上がってくるのは全部骨だったんだよ。

犬といっても、大型犬はなかった。

小型犬やら猫、
あるいはイタチとか山の野生の動物の骨。

まあ俺にその区別がつくわけじゃないが、
頭蓋骨の形で人間のものでないことはわかった。

1回網を入れると、
ずっしりという感じで
藻で緑に染まった骨が上がってくるんだ。

それをザラザラと池の脇に積み上げていく。

まだ暑い時期だったから大汗をかいたよ。

骨はいくらでも出てきたんだ。

何十体、いや百体近い小動物の死骸が
投げ込まれてたってことだな。

これをさらうだけで、
コンビニ弁当の昼飯をはさんで4時間はかかった。

ある程度までさらったところで、
水抜き栓を開け、
さらにポンプを使って水を草むらに流した。

底が見えてきたが、泥がたまってて、
その中にも何本も大小の骨が沈んでたな。

そういうのも泥と一緒に全部拾い上げてるうち、
2台めのハイエースが大きな木箱を2つ持ってきた。

それにさらった骨を入れてると、
さすがにあたりが暗くなってきた。

この日は泊まりだったんだよ。

昼よりは少し豪華なコンビニ弁当が配られて、
それが夕飯。

その後は屋敷の一番庭に近い部屋に入って
俺たち3人が泊まる。

ジイサンら2人は
それぞれ車で帰ることになってた。

夜の間に、
さらった池に水を入れるって言ってたな。

その部屋は掃除されておらず、
まずホコリをぬぐって
寝場所を確保するところから始めた。

布団はなしで、
それぞれ1枚ずつタオルケットを渡されただけ。

それで寒いということはないし、
むしろ暑いので雨戸はもちろん、
ガラス戸も少しずつ開けてた。

蚊が嫌だったし、
蚊取り線香も渡されていたが、
これがほとんどいなかったんだ。

電気はついたけど
テレビがあるわけでなし、
ラジオも持っては来てない。

これもジイサンたちから差し入れのウイスキーを飲みながら雑談してたが、
10時ころには半ば腐った畳の上に寝た。

昼の作業で、
体が疲れきっていたんだよ。

バイトは数々やったが、
その池さらいはかなりの重労働だったんだな。

でな、部屋の電気を消したとたん、
ギィー、ギィーという音が頭の上から聞こえてきた。

屋敷は広いけど平屋だから、
上階からの音じゃない。

「なんだよこれ。うるせえな」

仲間の一人が言った。

「家鳴りだろ、
でなきゃ屋根の上に野生動物がいるとか」

「家鳴りって、
さっきまで聞こえてなかっただろ。
風もないし」

「猫がさかる季節じゃないけど、
俺らの知らない山の動物かもしれん」

「赤ん坊の泣き声みたいで気味わりいな」

こんなことを言い合ったのを覚えてる。

けど、その音は5分ほど続いてやんだんだ。

それと同時に、
俺はことっと寝入ってしまった。

それから何時間ぐらいたったか、
仲間の

「うわーっ」

という叫び声で目が覚めた。

そしてすぐ電気がついた。

「なんだよ。何かあったのか」

俺が立ってるやつに声をかけると、

「今、顔の上を何か踏んでった。
小さいものだ」

こう言った。

「あー、やっぱ戸を開けてるから動物が入りこんだのか」

「いや、動物・・・
そうかもしらんけど、どうもなあ・・・」

そいつは何だか煮え切らない返事をした。

部屋の中を見渡しても
何かがいる様子はなかった。

その部屋から他へ通じるふすまは閉めてあったし、
もし動物が入ってきたとしても、
またガラス戸から出たのか、
でなきゃそいつが寝ぼけただけだと思った。

時計を見ると4時だったんで

「もうすぐ夜が明けるし、
暑くないから戸を閉めて寝るぞ」

で、また俺は吸い込まれるように寝てしまったんだ。

次に目が覚めたのは8時過ぎで、
仲間は2人とも起きてて、
縁側から庭の池を見ていた。

俺が起きていくと、
池の水が3分の1ほどたまってた。

便利屋のジイサンの一人が来てて、
車から小ぶりの箱を持ってきた。

何をするんだろうと思ってたら、
箱の中から金色の仏像、
15cmくらいの小さなものだったが、それを3体、
池の水の入った底に間隔が均等になるようにして立てたんだ。

「あれ見ろよ」

仲間が池の底を指差した。

澄んだ水の底に、
小さな足跡のようなのがいくつもあった。

人間の、赤ん坊の足跡のように思えた。

朝飯のおにぎりと牛乳をジイサンからもらって、
その日の仕事を聞いた。

家の中の拭き掃除ってことで
見取り図を渡された。

部屋数を考えて
俺らはげんなりしたよ。

ただし、トイレや風呂、
その他にも掃除しなくてもいい部屋もあって、
そこには入るなってことだった。

雑巾とバケツを渡され、
雑巾は汚れきったら捨ててもいいと言われた。

それと奇妙なことだが、
バケツの水は池から汲めって言われたんだ。

言われたとおりにしたよ。

一人が6部屋の担当で、
ホコリのせいで雑巾はすぐダメになった。

バケツの水もすぐに真っ黒になって、
何度も草むらに捨て、池から汲みなおした。

そんなこんなで、昼飯をはさんで
全部終わったのが3時過ぎだったな。

それからジイサンのハイエースに乗って、
大学のある街に帰ったわけだ。

着いたら6時過ぎてて、
ジイサンは

「あんたら頑張ったから、色つけてある」

そう言ってバイト料の封筒を渡してよこした。

中を見ると6万入ってた。

2日で6万は、かなり疲れたが
たしかに割はいい。

だけど何か釈然としないものがあったんだ。

それで、ジイサンが帰ってから
3人で近くのファミレスに入った。

金があるんでステーキを注文して、
いろいろ話した。

夜中に叫んだやつは

「俺の顔の上を通ってたのは、
赤ん坊じゃないかと思う」

「だってよう、
動物なら毛があるだろ。
それがすべすべしてたし、
なんかミルクのにおいもした」

もう一人も

「あの池さらい変だよな。
何であんな動物の骨が入ってるわけ?それと・・・
これは違うかもしれないけど、
形の残ってる頭蓋骨は犬猫のものだろうけど、
くしゃっとつぶれたやつの中に、
人間の赤ちゃんじゃないかと思えるのがいくつかあった。
それにジイサンが池に沈めた仏像はありゃ何なんだ?
変すぎるだろ」

それから3人でいろいろ考えたが、
はっきりしたことはわからなかった。

ただ、何か赤ん坊に関係があることだとしか・・・

でな、これからのことは関係があるかはわからないんだが、
俺はこの後、大学はなんとか卒業したが、
就職はせずにアメリカに渡った。

観光ビザで不法就労してたんだよ。

向こうで女もできてな。

結婚するつもりはなくて避妊してたんだが、
子どもができてしまって、
彼女は産むといってきかなかった。

だから俺も向こうの人になる覚悟を決めようと思ったわけ。

ところが、5ヶ月目に流産してしまって、
それをきっかけに別れることになったんだ。

日本に戻って就職した。

ベンチャー企業で
やりがいがあるし成功してる。

結婚もしたんだよ。

だけど2回妊娠して、
2回とも流産だったんだ。

医者の話では、
女房の体に問題があるということではないようだった。

でな、このバイトのことが気になるんだよ。

俺以外の2人が今どうなってるかも。

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