ある田舎町の高校で、
写真部に所属する男が、
同じ学校の女の子に片想いした。

彼女は町外れの古い家でおじいさんと2人暮らしで、
おじいさんの面倒をよくみるとても優しい子で、
みんなから人気があった。

そんな彼女に惚れた彼は、
写真のモデルを頼んだりして付き合い、
やがて2人は恋人のような関係になる。

高校を卒業した後、
上京を望む彼は彼女も誘う。

しかし彼女は、
年老いたおじいさんを残していく事はできなかった。

彼女のおじいさんの存在が
だんだん疎ましくなってきた彼は、
なにかにつけて

「おじいちゃんが…」

と言う彼女に、

「その、おじいちゃんが、おじいちゃんが、ていうの止めろよ!」

と冷たく当たる。

そして、彼が旅立つ日になり、
彼女の元へ別れを告げにゆくと、彼女は

「私も連れていって」

と懇願する。

彼は

「でも、おじいさんはどうするんだよ?」

と問うが、彼女は

「おじいちゃんならもう大丈夫」

と言う。

不審に思った彼が彼女の家に上がると、
彼女のおじいさんは血まみれになって死んでいた。

そして彼の後ろから血のついた包丁を取り出した彼女が、

「おじいちゃん、今寝ているから起こさないでね」

と微笑んだ。

彼は恐怖のあまりワーッと叫んで一目散に逃げ出し、
この町を離れていった。

それからの十数年、
彼は生まれ故郷であるこの町に戻る事は無かった。

思えば、自分を深く想うゆえに、
彼女はあんな行為に走ったのだろう。

そこまで彼女を追い詰めたのは自分であるという、
罪の意識にずっとさいなまれたが、
やがてその記憶も薄れていき、
遠い過去のものとなっていった。

そんなある時、
彼の元へ高校時代の写真部の同窓会が開かれるという知らせが届く。

彼は思い切って帰郷する事に決めた。

同窓会では懐かしい面々に出会い、
酒を酌み交わしながら話に花を咲かせたが、
ふと彼は彼女の事を思い出し、
彼女がおじいさんを殺した事に自分が関わっていた事は伏せ、
あの後に彼女がどうなったのか、みんなに尋ねてみた。

だが、みんな彼女が殺人を犯した事を知らないどころか、
一緒になって彼女の写真を撮った事もあるはずの奴等が、
誰1人彼女の事を全く覚えていなかった。

そうなると、
余計に彼は彼女の事が気になり、
町を方々歩いて彼女の消息を探った。

やがてその話を知っているおばあさんに出会うが、

「それはもう五十年以上も前の話だよ」

と言う。

「そんな馬鹿な」

と、
彼は自分の記憶が錯乱しているんじゃないかと思いながらも、
ひたすら記憶をたどって、
彼女の家があった場所へと向かう。

しかし、そこは深い絶壁になっており、
家が建っていた痕跡すら無かった…。

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