東京の端っこに
八高線というローカル線がある。

俺は高校生の頃
その電車を使って通学してた。

はじめは一人で通学していたが、
たまたま隣のクラスのやつが隣町に住んでて
一緒に通学するようになった。

クソ暑いある日、
俺はいつもの車両ではなく、
ホームの日陰から乗れる車両に乗った。

友達にそのことをメールし
その車両に移動するように伝えると、
友達は絶対嫌だとメールを送ってきた。

普段頼みを断るようなやつではなかったので
不思議に思い理由を尋ねると、
一通のメールが返ってきた。

すげぇ背の高いおっさんいない?

見渡してみると
確かに他の乗客に比べて
頭二つ分ほど背の高いスーツの男性が見つかった。

いるよとメールで答えると、
そこでメールが途絶えた。

そのまま電車は終点のターミナル駅に着き、
電車を降りると友達が後ろから声をかけてきた。

そこでさっきのメールの内容を尋ねると、
明日例のおっさんの前に立ってみればわかると
友達はニヤつきながら答えた。

翌日の朝、
俺は友達の言う通りおっさんの前に立とうと
混雑している車内を無理やり進んだ。

そうして予定通りおっさんの前に立てたのはいいが、
車内の混雑さにおっさんの腹に顔を押し付けるばかりで
とてもじゃないが上を向くことができなかった。

そうしておっさんの腹ばかりを見ているうちに
俺は変なことに気づいた。

おっさんの着ているスーツはボタンや裾がほつれており、
ワイシャツは黄ばんで所々食いこぼしのようなシミがついていた。

社会人が着ているには
あまりに薄汚れた服装に俺が首を傾げたあたりで、
乗り換えの人たちが降りて
車内に少し余裕ができた。

俺はおっさんの顔を見ようと
さりげなく視線を上に向けた。

おっさんは半分飛び出したまん丸の目を見開きながら、
俺をじっと見ていた。

にらめっこする?

俺と目があうと、
おっさんは妙に甲高い声で俺に尋ねてきた。

にらめっこする?
にらめっこする?
にらめっこする?

慌てて下を向いた俺の頭上から
おっさんは間を空けずに尋ねてきた。

にらめっこする?
にらめっこする?
にらめっこする?

そのまま終点のターミナル駅まで、
おっさんは俺に尋ね続けた。

ようやく駅に着くと、
乗り換え先のホームまで
俺は人を押しのけながら急いで向かった。

ホームにつくと
ちょうど発車寸前の電車があり俺は飛び乗った。

すぐに扉が閉まり電車はうごきだしたが、
少し進んだところで電車は急停車した。

つんのめって転びかけた俺が姿勢を起こすと、
閉まっている扉のガラスにあのおっさんが張り付いていた。

すぐに駅員が飛んできて
おっさんを羽交い締めにしてドアから引き剥がしたが、
おっさんはずっと俺を見つめながら何かをつぶやいていた。

その後は何事もなく電車は進み、
俺は無事学校に着いた。

昼休みに友達におっさんのことを尋ねると、
あれがにらめっこおじさん、結構有名人だよ、
とニヤニヤしながら答えた。

それ以来俺はあの車両に乗ってない。

もう十年近く前の話だ。

気になる人は
東福生駅七時半発の八王子行きの電車の
先頭から一つ後ろの車両に乗ってみてほしい。

そして出来れば、
おっさんの問いかけにイエスと答えるとどうなるのかを教えてほしい。

多分あのおっさんは障害者か何かだと思うが、
今でもあのおっさんは誰かとにらめっこをしようとしているのだろうか?

【意味怖】意味がわかると怖い話の最新記事