数学的可能性について話していた。

同じ姓名で同い年、顔、声、性格が似ている人物が、
同じ会社で働く確率とか、
駅で「おとうさん」と女性が叫ぶと、
ラッシュアワーでもみくちゃになった人たちのうち何人が振り返るか…とか。

地域やその場所の人数を割り出したり、
それを数式で表そうとするととてもややこしいので、
僕達はひたすら話だけに興じた。

酒のつまみを買出しに行こうと、
僕達はコンビニへ行った。

スルメやマヨネーズなんとかを買って、
水割りの氷を他で買い、
僕のマンションへ戻る途中に友人が言った。

「今、俺等がお前のマンションへ帰ろうとしてるわな?
そいでさ、留守であるお前の部屋の前に、今誰かがいるわけよ」

「怖い事言うな」

「いや幽霊じゃなくてさ、誰かがいるわけよ。誰かが」

「うん、誰かがな」

「その誰かがさ、お前がいないので、あきらめて帰ろうとするわな」

「帰ろうとするんだな」

「その人が、俺等とマンションの前でバッタリはちあわせする、という可能性」

「低いな」

そこまでの会話が、
曲がり道から突っ込んできた自転車によって途切れた。

「あぶないなあ」

「ごめんなさいぐらい言えよなあ」

自転車はぶつかりそうになった僕達に目もくれず、
猛スピードで遠ざかって行った。

マンションの前に着くと、
なぜか友人が立ち止まった。

どうしたのかと聞くと、
僕の名前を呼ぶ女性の声が前(マンション入り口)から聴こえたらしい。

「またまた~」

と冗談はよせよっぽく誤魔化したが、
今思うと僕もその場所で、
友人が立ち止まるのとほぼ同時に違和感を感じていた。

エレベーターに乗り、
その中で自転車野郎に憤慨しながらも話は続いた。

「幽霊が名前を呼んだ可能性」

「違うってだから」

「これはやばいっていう確率」

部屋に戻ると、
僕達は更に怖い系を加味して語り合った。

「か細い声だったような、気のせいだったような」

「近所のガキだよきっと」

「お前をうらんで死んだ女の霊だ」

「そんな奴はおらん」

心霊ドラマの話題になった。

よくドラマでは、
絶好のタイミングで電話が鳴ったりする。

電話をかけてきた相手が誰であれ、
恐れおののいている主人公の家の電話が鳴る可能性。

「可能性は高いと思うなあ」

「低いよ、普通」

「家にいると結構かかってくるよ。携帯も」

「セールスばっか」

そこで友人が提案した。

「今から一時間以内に知り合いから電話が掛かって来ると、
心霊ドラマのパターンは嘘じゃない」

そう言って、
まさに友人が電話を指差したその時、
電話が鳴った。

電話に出ると、
僕が付き合っている女性からだった。

「さっき、おれのマンションに来た?」

『行ってないよ』

しばらくして彼女が来た。

マンションの入り口で男性の声を聴いたらしい。

名前を呼ぶ声でなく、
低い声で二秒ぐらい

「あーーーーーーー」

と気の抜けた感じで。
幽霊とか呪いとかそういう雰囲気じゃなく、
ごくあたりまえに。

一週間か十日ほど?たったころ、
旅行先の彼女から電話があった。

夢をみたらしい。

僕と友人があまりに仲が良いので、
ちょっと嫉妬した彼女が、
自転車で道を歩く僕と友人にぶつかる。

マンションへ先回りをし、
僕の名前を呼ぶ。

ぞっとして、
僕は可能性が好きな友人に電話をかけた。

「なあ、これって生霊とか、そういうんじゃねーの?」

『あーーーーーーー』

そういう話は興味が無いらしく、
僕等は話もそこそこに携帯を切った。

僕は彼女の聴いた

「あーーーーーーー」

を即座に思い出した。

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