数年前のお話になります。

私は東京都の西の方にある、
ロフト付きのアパートを借りていました。

私は特に何かを感じるとか、
そういったモノは無く、
また学生だったこともあって
日々呑気に生活をしていました。

私の眠る場所はロフトに布団を敷いて、
だらだら寝るといったスタイルだったのですが
一年目の冬頃から、
おかしな音が聞こえるようになりました。

睡眠場所のロフトには、
枕がある方向に、
小さな押入れがありました。

その押入れの中から、
夜眠るときになると、
爪でかりかりとひっかいたり
中でごそごそと動くような気配があったり
何かを『ゴン!』とぶつけるような音が、
毎夜聞こえるのです。

私の部屋は角部屋で、
押入れのある方向には誰も住んでいないのです。

ですが、毎夜のことなので、
いい加減私も頭に来てしまいまして、
いつものように、カリカリカリ……と鳴りはじめたのを確認した後
徐に押入れをガラッと引き開けて、

「毎晩うるっせえぞ、ゴルァ!!」

と叫んだあと、
押入れに身をかがめた状態で蹴りを入れて眠りました。

音のする頻度はかなり少なくなったような気がしました。

と、ここまでが前置きなのです。

私生活では、
有り難いことに彼女が出来まして、
なんとたまに泊まりに来てくれるようになりました。

料理も上手でしたので、
私はとても幸せだなぁと、
その時は考えていました。

ところがある日、
テレビ(内容は何だったか覚えていませんが)を見ながら、
私と彼女で夜ご飯を食べている時、
異変は起こりました。

それまで、お互い

「美味しい美味しい」

とか他愛もない話題をしていたのですが、
突然、彼女が箸を落とし、
それまで女の子座りだった姿勢を、
急に正座に直して床のほうに俯いて、
微動だにしなくなったのを覚えています。

私は当初、舌でも噛んだか、
気分が悪くなったのかと思い、

「おーい、大丈夫?」

的な軽い様子見の言葉かけをしました。

しかし、彼女は私の声が聞こえていないのか、
まったく反応しなかったのです。

具合が悪いのだと勝手に判断して、
彼女の肩を軽く揺すってみました。

すると、水面から「プハッ」と顔を上げて、
息が出来るようになった――と言えば
なんとなく様子が伝わるでしょうか?

「助かった……マジでやばかった……ありがとうね」

と、なぜかお礼を言われる始末。

私はまったくイミフでした。

一体何があったのか聞いてみたところによると、以下

「上の押入れから、ヤバイのが出てきて、
私の耳元でずぅーっと囁いてた」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「私の男に触るな」

と言ったような内容だったと思います。

詳細はうろ覚えなので何とも言えませんが、
兎に角、彼女が言うには、
この部屋には『私』を気に入っている『ヤバイ女の霊』が
棲みついているようです。

私は霊感なんて持ち合わせていませんし、
彼女の言っていることも、
眉唾ものだとその時は思っていました。

しかし、私の常識を覆すような、
恐ろしい事態が二件発生したのです。

一つ目

「置くだけでもいいからやりなさい!」

と怒られて、
押入れの中に盛り塩を作っておきました。

めんどくさいが半分、
彼女の精神が落ち着くならいいやというのが半分でした。

冬なので、寒い寒い言いながら、
盛り塩を押入れに設置して次の日の事です。

押入れを開けたら、
盛り塩が『べちゃべちゃに溶けている』状態でした。

水か何かをぶっかけたように、
どろっとしていて、緑色?の良く分からない
粉のようなものがついていたのを覚えています。

この時ばかりは流石にびびりました。

とりあえず、
押入れに蹴りを入れるのはもうやめようと心に誓った程度です。

二つ目

私はとあるご縁で、
特別養護老人ホームのお手伝いをする時がありました。

多くの利用者さんが認知症を患っていますので、
気の抜けない場所と身構えていましたが、
意外に話が通じる、優しい利用者さんが多くて、
肩を撫で下ろしました。

ですが、その中でも数名の利用者さんに、
まったく同じことを言われ、
泣きそうになったことがあります。

「○○さん、今日もお子さんを連れてきていらっしゃるのねぇ」

「ぇ、いえ、私は未婚ですし、
子どもなんて居ないじゃないですか」

「いえ、ほら、あなたの袖を握ってる、
赤い服の女の子のことよぉ」

上記のやりとりは鮮烈に覚えています。

多分、利用者さん五名くらいに同じこと言われました。

その物件には三年ほど住んでいたのですが、
基本的には私はノーダメージ。

彼女は

「絶対にロフトには上がらない」

との一点張り。

そうこうしているうちに、就職先が決まり、
新たに引っ越しをしました。

引っ越し祝いで、
少し豪勢な夕食をしていた時、
彼女がポツリと呟きました、

「本当、あの家やばかった。
ここに越してきて助かったよ~」

と。

私はかねてから聞いてみたかったので、
実際あのアパートはどれくらいのヤバさなんだと訊ねてみました。

彼女曰く

「十段階評価で九
もちろんヤバイって意味で。
なんの怪我もしなかったのが奇跡レベル」

だそうです。

特に何があったとか、
起きていたとか聞き及んでいませんが、
どうにも場所が悪いとか云々言っていた気がします。

しかし、そんな場所で
何故私が無事だったのか疑問に思ったので、
理由を訊ねてみました。

彼女曰く、
なんでも私には悪霊も目を逸らすレベルの守護霊がついているそうです。

正直に言って、なんじゃそりゃ?な話ですし、
怪奇現象の解決には至っていません。

西東京で、
他の部屋と比較して二万円くらい家賃が違う角部屋を見つけたら、
一応のご用心を。

【意味怖】意味がわかると怖い話の最新記事