これはマジ話だから聞いてほしい。

小学校低学年の時に母親とケンカした。

その時は母親と一緒に寝てたから
けっこー夜気まずかった。

お互いに背を向けてその日は寝たんだ。

そろそろ寝付くかって時に、
耳に何か違和感を感じた。

見えない細長い虫みたいなのが耳の奥を撫でまわしてるというか、
まとわりついてるというか。

でもそれはくすぐったいというより、不気味な感覚で、
恐怖からか心臓がバクバクいってたのを覚えてる。

しばらくするとその虫はもっと動き始めた。

イメージで言うならぶるぶる振動してる感じで、
その震えが大きくなればなるほど、
何やら耳鳴りのようなものも聞こえてきたんだ。

キィエアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんな感じ。

最初のキは本当に高い音で、
後の部分はただ伸ばしたように無機質で、
洞窟で響いてるような音がするんだ。

そんでその響くってのも、
耳が千切れんじゃないかってくらいうるさい音で、
凄い痛かった。

あと体がいわゆる金縛りにあってんのも気づいた。

全身が痺れて動かない。

これが金縛りなのか、
とか子供ながらに思ってたら
その耳鳴りから一瞬意識がそれたんだ。

んで意識が戻った時に気が付いたんだけど、
この耳鳴り、ループしてる。

キィエアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キィエアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キィエアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんでまた気づいたんだ。

あ、この耳鳴り、
女の人の叫び声だ、って。

その瞬間、
耳鳴りが二つ、三つ、五つと増えていった。

男の人、女の人、叫び方も様々だった。

音量も急激に上がって、
まるで気づいた俺に罵声を浴びせているかのようだった。

最終的に、
これ以上多くなったら死んじゃうってくらい
叫び声は増えて行った。

そのあと、だんだん縮んで消えた。

シーン。

夜にふさわしい静寂が聞こえた。

まだ耳がジンジン痛くて、
でもあの耳鳴りが聞こえないだけましと思った。

俺はその時まだ幼かったから、
これはお母さんとケンカした俺を神様が怒ってるんだ、
なんて純粋に思ったんだ。

勿論翌日に母親に謝罪。

これでもう耳鳴りから逃げられると思った。

でも違った。

謝ったその日も、その次の日も、
またその次の日も、
俺は耳鳴りに襲われた。

あの日から周りでおかしなこともまた起き始めた。

全部書くのはしんどいから、
ひとつ例を挙げるんだけど、
中学生になった時に一人部屋をもらった。

俺は片づけるのが下手だから、
すぐにベットの周りをプリントとか雑誌で埋め尽くしちゃったんだ。

夜になって、目を瞑ると、
ガサガサって音がする。

最初は気にならなかったけど、
だんだん頻繁になってきて、
多分これは誰かが俺のベットの周りを歩いてるんだな
って感じが分かった。

でももう眠くて、うざかったから
(この時にはこういうの慣れてきてた)
音のする方を見たんだ。

すると音がしなくなって、
寝るか、って思ったんだ。

したらコンコンってドアをたたく音がして、
そっち見たらドアの隙間から顔がのぞいてた、とかね。

まぁとにかく耳鳴りの方がひどかった。

あの日から中二まで毎日あった。

ほんとに寝れなくてつらかった。

でも相談なんかできるわけなく、
我慢してた。

高一くらいになると
回数が週三とか四になってきて
嬉しかったことを覚えてる。

正直中一まで毎日聞いてたわけだったから、
スゲー慣れちゃって、
そんときには自分独自の金縛りを解く方法で
耳鳴りを早く終わらせてた。

ちゃんと全部聞いてやんないからあいつらも嫌になって、
回数が減っちゃったのかなとか思ってた。

そんで高校生の時のある日。

夜寝てたらいつもの耳鳴りに合った。

さっきもいったとおり
そん時の俺はまたかぁってレベルで慣れてたから、
俺独自の方法で解こうとしたんだ。

でも、なまじ慣れちゃってたし、
一週間半ぶりの耳鳴りだったから、
最後まで聞こうって思っちゃったの。

ほんと馬鹿だと思う。

いつもなら切り上げるタイミングでも
俺は寝そべって調子こいて聞いてた。

すると寒気が体を襲った。

言えもしれぬ気配が体を覆うのが分かった。

言葉にすると何ともないけど、
実際に体験したその時の俺の心情は

これはまじでやばい

だった。

こういう体験したことある人がいればわかってくれるかもしれないけど、
本能っていうか、深層心理でっていうか、
体のどこかでこの気配は絶対に触れちゃいけないもの、
感じちゃいけないものだっていうのを理解してた。

だから必死になって金縛りを解こうと思ったけど、
時すでに遅し。

耳鳴りはいつもの限界を軽く超えてまだ大きくなって行って、
体なんてピクリとも動かせない状態だった。

キ”イ”エ”ア”ア”コ”オ”オ”オ”オ”オ”ヒ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”イ”ヤ”ア”ア”ア”ウ”ワ”ア”ア”ア”ア”オ”エ”エ”エ”ア”ア”

今まで聞いたことがない、
いくつにも積み重なった叫び声が耳の中で暴れまわった。

眼だけが動いたから、
必死に部屋中を見渡した。

すると、月明かりに照らされた部屋の中で、
何やら黒いもやがうごめいているのを見つけた。

それはだんだん、
手、足、頭と形を成していって、
人間の形になった。

ただただ真っ黒な人間だった。

ベットのそばに立って、
俺を見下ろしていた。

こいつは絶対にやばい、
見ちゃいけない。

心がそういっているのに体は動かない。

しばらくするとそいつは、
ウワッ!と驚かすようなそぶりを見せた。

ギャグ漫画を見たばかりの糞餓鬼が、
そういうシーンを真似しているような感じで、
凄く憎々しかった。

すると周りから続々と黒いもやが出てきた。

それはみんな人間になり、
一人で立っているもの、
集団で何やらぼそぼそ言ってるもの、
そしてなにより、俺の耳のそばに集まって、
黒くて鼻も目も見わけかつかないはずなのに、
明らかに大きく口を広げて叫び声をあげている様が分かるやつらが出てきたんだ。

叫び声の正体どもは、
集まり過ぎて四つん這いで何とか張り付いているもの、
無理やり体を曲げているものなどいっぱいいたが、
何よりそこまでして耳元で叫ぼうとする意味不明さ、
そこまでして叫んでどうすんだという恐怖が体中を支配した。

その時初めて俺は
歯を盛大にガタガタ鳴らしていることに気が付いた。

あんな恐怖はあとにも先にも感じることはないだろう。

どれほど時間が立ったかしらないが、
しばらくしてだんだんと消えて行った。

朝日が昇っていた。

俺はしばらく歯をガタガタいわしてた。

あれからというもの、
ほとんど聞かない。

最後に聞いた時から十数年たったが、
何もおかしなことも起こらない。

あれが最後だったんだろう。

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