出張で泊まったホテルでの話。

忘れもしない12月の寒い日。

S市に住んでる俺は、
仕事の都合で一日だけA市に出張に行く事になった。

たびたび訪れてるA市だったけど、
その日はいつも泊まるホテルが満室で
仕方なく違うホテルを予約する事にした。

初めて利用するホテルだったけれど、
そんなに古くも無くて最初は快適に過ごせた。

次の日の仕事がS市での会議だったため、
早朝にチェックアウトをするつもりで
その日は普段より早く就寝した。

一時間くらいで目が覚めて、
なんだか喉が渇いたので洗面所で水を飲んだ。

「ヒュルヒュルヒュル」

って音が聞こえてて、
風か何かだろうとそのときはさほど気にも留めなかった。

ベッドに入りまた寝入ることにして、
二時間くらいだろうか、また目が覚めた。

暖房をつけたままで眠ったためだろうけど、
やけに喉が渇いて、また洗面所で水を飲む。

「ヒュルヒュルヒュル」

まだ音がする。

隙間風が入ってくるんだろうか?

見掛けによらず
築年数は経っているのかもしれないと
そのときは思っていた。

ベッドに入るものの、
そう何度も目が覚めると寝つけにくくなってくる。

でも眠れなければ明日の仕事に差しつかえると思い、
瞼は閉じたまま横になる。

「ヒュルヒュルヒュル」

音はまだ聞こえてて、
ちょっとした音なのにいろんな想像を働かせた。

もしかしたら、
暖房の設備の動作音の何かかもしれない。

それが気になるせいで眠れないのかもしれない。

暖房をオフにした。

「ヒュルヒュルヒュル」

まだ聞こえてくる。

いい加減この音に対してイライラし始めた。

心の中で

「うるさい」

と思った。

そのとき

「うるさいか?」

小さな声が聞こえた。

遠くの方で。

一瞬、頭の中が真っ白になったが
冷静に考えてもありえないと思った。

そしたらまた

「うるさいか?」

先ほどよりも大きな声。

ハッとして目を開けると
目の前ギリギリまでの所に顔が。

数秒その顔の目と見つめ合って、
ゆっくり違う違うありえないと思いながら目を閉じた。

心の中では
どうしよう、どうしよう
とずっと混乱していた。

でも、この信じられない状況のままでは
なにか身に危険が起こるかもしれない。

そう思ってすぐに目を閉じたまま起き上がった。

起き上がるとそこには何も無くて、
でも、まだ居るかもしれないと思って
すぐに帰り支度を始め部屋を出る事にした。

支度をしている間も、
部屋を出て廊下を歩く間も、
エレベーターを待つ間も

「ヒュルヒュルヒュル」

と音はしていた。

フロントの従業員には何も言わず、
すぐにホテルを後にした

で、S市に戻ってその日の夜
同僚に酒を飲みながらその話をした。

同僚はそれに凄く興味を持ち、
来月A市に出張するからと、
その場で同じホテルの同じ部屋を予約した。

次の月、予定通り同僚はS市に出張し、
同じような体験をしたと興奮気味に電話をしてきた。

話を聞くと、
俺と同じような流れで事は起こったらしい。

ただ、すぐには部屋を出なかったと。

「うるさいか?」

と聞かれしつこく心の中で

「うるさい、うるさい、うるさい」

と思い続けたらしい。

すると右耳にちょっとした痛みを感じ、
ハッと目を開けたそうで、
でも目の前には俺が見たような顔は無かったと。

右耳に手をやると、
何かに掴まれてるような感触が。

ドキッとした瞬間

「うるさいかぁぁぁ?」

と語尾が間延びするような感じで
はっきり聞こえたという。

慌てた同僚は俺と同じように
結局そこを出たという。

彼の耳の裏側には
今も指の跡がくっきり残っている。

その後、
二人に起きた話を後輩社員に話した所、
また同じように面白がって、
そこに泊まると言い出した。

後輩社員が同じホテルの同じ部屋を予約しようとした所、
その部屋は他の客が利用しているので宿泊できないと断られた。

それでも興味があった後輩がこっそり、
そのホテルのその階のその部屋を見に行ったところ、

「STAFFONLY」

と記載され利用できなくなっていたという。

上からその部屋の元の番号は削られていたという。

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