おそらく地球人ではない人と、
自転車で高速で空を飛んだことがあります。

とは言っても、
これだけだとただの電波なので、
詳しく書こうと思います。

小学4年生のとき、
近所の公園で友達と遊んでいたら、
アメリカの青春映画に出てくるような、
いかにも好青年という感じのお兄さんが、
自転車を押して、ニコニコ笑いながらこちらに向かってきた。

外国人が物珍しかった私たちは、
彼を取り囲んで色々と質問責めにした。

彼も日本人並みに日本語が上手くフレンドリーだったので、
すぐに私たちの人気者となった。

これが彼との出会い。

彼の存在はだんだんと有名になり、
近所のおばさんたちの噂では、
彼は日本に来た留学生とのことだった。

そして2年後、私が小学6年生のとき、
同じ公園で一人でアイスキャンディを食べていたら、
またあのお兄さんが、自転車を押しながらこちらに向かってきた。

わたしが食べているアイスキャンディを物欲しそうな目で見ていたので、

「食べかけでよければどうぞ」

と半分あげたら、流暢な日本語で

「ありがとう!君は優しいね!」

と言われた。

これが、彼と一対一でした最初の会話。

さらに時は流れて、中学3年生の夏休み。

小6以来彼を見かけていなかったので、
彼のことはすっかり忘れていた。

当時、私は高校受験のために、
地元の塾の夏期講習に通い、
ある日のお昼休みに、
またあの公園でアイスキャンディを食べていた。

すると、ほとんど食べ終えようとしていた頃に、
彼が今度は自転車に乗って颯爽と現れた。

「え、まだ日本にいたの?」

と、あっけにとられて目を点にして彼を見ていたら、

「今僕の姿は君にしか見えていないから、
僕のことが見えないふりをしたほうがいいよ」

と耳打ちされた。

彼が

「自転車の後ろに乗りなよ」

と小声で呟いたので、
わたしは二人乗りをしてみた。

その瞬間、自転車がふわりと宙に浮いて、
彼がペダルを漕ぎ出すとどんどん前に進んで行った。

かなりのスピードだった。

どんどん高度は上がっていき、
地元の駅が蟻のように小さく見えるほどだった。

彼は時おり、

「今は大宮上空だ」

とか、

「あれが××の生き残りの村だ」

とか説明してくれたが、
空気の音で殆ど聞こえなかった。

しばらく飛行を続けていたら、
さすがに怖くなって、

「そろそろ下ろして欲しいんだけど」

と言ったら彼はうろたえて、
捲くし立て始めた。

「そんな困るよ、君のことを僕の家族にも話したんだよ。
これは運命だ!と僕の師匠が断言した!
僕の両親も楽しみにしてる」

「じゃあどこまで行くつもり?」

とわたしが訊いたら、

「あと5時間くらいだよ」

とにっこり笑ってた。

何回も懇願されていたから、
少し申し訳なくも思ったけれど、

「悪いけど、わたしはまだ15歳だから、
あなたのお嫁さんにはなれないの。
あなたの国では違うのかもしれないけど」

と意味不明な説明をしたら、
彼は残念そうに頷いて、
しぶしぶ地上に下ろしてもらえた。

「×××(多分わたしの名前を言ったつもりだったんだと思う)大丈夫と思う!」

そう言って彼は、
また自転車で上空に昇っていった。

これが彼を見た最後。

何が大丈夫だったのか分からない。

降ろされたところは、
見たこともない深い森の近く。

腕時計を見たら、
地元の公園を出発してからまだ20分も経過していなかった。

すぐ近くの駐在所(交番?)に駆け込んで、

「迷子になりました」

と警官に伝えたら、
母親に連絡してくれた。

住所を尋ねられて、
正直に答えたら驚かれた。

当時私が住んでいたのが、
埼玉の熊谷というところ。

駐在所があったのは、
東京から八王子を超えた、
山梨県との都県境の藤野という町。

どうやってここまで来たのかと問い詰められたけど、
今起きた出来事を話しても信用されるはずがないと思ったので、

「実家からひたすら自転車を漕いでいたら、
いつの間にかここでした(泣)
自転車は途中で壊れました(泣)」

と嘘をついた。

当然信用されずに、
「誘拐?」などと疑われたが、頑なに否定して、
結局、熊谷から無賃乗車したが、
あまりにも遠くに来すぎて怖くなって下車したのが藤野だった、
ということになった。

このことを母親に話したら、

「塾をサボるための作り話でしょ」

と言われ、
そのほかの人にも、大抵は

「夢を見てたんでしょ(笑)」

で片付けられた。

でも、例えあの飛行が夢だったとしても、

・熊谷から藤野まで、どんなに上手く電車を乗り継げても2時間以上かかるのに、20分ちょいで到着したこと。
・授業が終わってアイスキャンディを買いにいくところを、先生と何人かの友達が見ていること。
(授業が終わったのは、交番に到着する30分くらい前)
・警察官が、私を駐在所で保護した時間を記録していたが、記録された時間は出発から約20分後だったこと。
・↑つまり、出発時間と到着時間の証拠あり。
・そして、多分、私の頭はまだ正常であること。

を考えると、
これは未だにうまく説明できない不可解な体験です。

あれから10年以上経って、
ちゃんと(?)人間の世界の人と結婚しました。

「運動不足解消だ」と言って
自転車通勤を始めたダンナを見て、
ふとこんなことを思い出しました。

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