父と母と娘と、一人の召使いがその家に暮らしていた。

両親は一年の三分の一を留守にするほど仕事に忙しかった。

娘の相手さえ出来ないほどに。

その代償として、両親は娘にぬいぐるみを何個も与えた。

娘はそのぬいぐるみに両親の愛を感じた。

仕事のため家を空け、お互い会う事すらない日々が続き、
夫婦の間に亀裂が入るのには、そう時間はかからなかった。

娘への愛もいつしか薄れ、
ぬいぐるみを贈るのもただの習慣となった。

それでも娘はそれを愛の印だと信じて疑わなかった。

家にいる時両親は、娘に辛く当たるようになった。

やがて召使いもそれを真似するようになり、
両親が仕事に出てからも、
娘は苦痛の中で日々を過ごすようになった。

人の心にある醜い感情を知らない娘は、
何故皆が突然自分に辛く当たるようになったのかわからなかった。

「ねえ、なんで私を叩くの?悪口を言うの?
お父様もお母様もお前も。
みんな私を愛してくれていたのに…何故突然?」

召使いはあまりにも無知な娘に答えた。

「貴方に対して愛を持ってる人なんてもう誰もいないんですよ」

言葉の後、召使いは娘を殴った。

裕福で美しい娘に以前から感じていた嫉妬のせいもあった。

娘は抵抗し召使いを突き飛ばした。

召使いは頭を打ち死んだ。

無知な娘は死すら知らず、何があったのかよくわかなかった。

動かなくなった召使いを見ながら娘はぼんやりと考えた。

皆は私に対する愛がなくなった。

どこかに愛を置いて来てしまったのだろうか?

どうすれば皆元に戻ってくれるのだろう?

愛を体に詰め込めば、
また幸せな日々が帰ってくれるだろうか……?

そうだ、昔のお父様やお母様の愛の詰まったぬいぐるみの中身を、
皆の中に詰め込めばいいんだ!

娘は良い事を思いついたと、とても喜んだ。

娘は母の部屋にあった小さな刃物でぬいぐるみの腹を裂き、綿を出した。

このフワフワとした物が両親の愛なのだと娘は思った。

次に、召使いの服をめくり腹を切ったが、上手く切れない。

娘は台所にあった、
豚などを解体する時に使う大きな刃物を持ってきて

それで召使いの腹を切り開き、中に綿を入れた。

血がだらだらと出てきたが気にしなかった。

次の日に調度いいタイミングで両親が帰ってきた。

娘は両親の腹を刃物で刺した。

苦しみに倒れる両親の腹を娘は切り開き、
ぬいぐるみの綿を詰め込んだ。

部屋の隅には昨日死んだ召使いの死体が転がっている。

娘は笑顔で三人を見た。

愛をたっぷりと詰め込んだんだから、
これで皆また私を愛してくれるはずだわ。

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