あれは俺が13歳位の頃だったろうか。

鬱陶しい梅雨の時期には、
近くの田んぼにカエルがわんさか湧く。

俺の実家は田舎で、
それこそ農作業で生活してる人もいるし、
通学路なんか半分は、
左右田んぼに囲まれた道が続いてた。

で、当時中学生だった俺は
梅雨だから外にも出れなかったし、
暇で暇で仕方なかったんだよ

家で何かないかなと色々漁ってたら
姉ちゃんが買ったハリーポッターの秘密の部屋のビデオがあったから
それ見てたんだよ。

俺はハリーポッター興味なかったから、
そのビデオが初見だった。

その映画にはバジリスクっていう水道を通って、
見た人間を石化して殺す蛇が出てくるんだけど
中学生の俺には、それがかなり怖かったらしく、
その日は一人で留守番だったのも含めて、見終わった瞬間
背筋が常にゾクゾクしてた。

だって水道通ってくるんだぜ?

どこにいても逃げ場ないじゃん。

かと言って外にも出れないし、
俺は適当に面白そうなバラエティでもつけて
気を紛らわそうとした。

でもそんなんで気が紛れたら
誰も苦労しないじゃん。

俺は1人でずっとゾクゾクしてた。

で、夜7時位になって、
じーちゃんとばーちゃんが帰ってきて、
少しは恐怖感もなくなった。

でも両親は飲み会で、
12時位にならないと帰ってこないらしい。

おまけにじーちゃんとばーちゃんの寝室は1階で
俺の部屋は2階だったから、
広い2階には俺1人。

電気消して寝ようとしたけど、
当然その瞬間にバジリスクが俺の脳内をよぎる。

後ろ向いた瞬間、
目が合わないかとか、
下のじーちゃんとばーちゃんは無事か、とか
今にして思えばバカじゃねーの、とか思うけど、
当時の俺としては本気でそう思ってた。

1時間位寝付けなくて
ずっと壁の方向いてた。

電気つけて寝ようにも、
振り向かないといけないし、
そんなのさすがに無理だった。

で、聞こえてきた。

バジリスクの鳴き声でも這いずる音でもなく、
カエルの鳴き声が。

耳元で響くように、
「ゲコ」っていう鳴き声。

田舎暮らしとしては聞き慣れた、
あの声。

家具の軋む音とか、
時計の針の音とかと聞き違うはずもない、
リアルな鳴き声だった。

俺の部屋にはそんな声出すおもちゃも
ゲームも目覚まし時計もないし、
それが聞こえた瞬間、
今までにないくらいのゾクゾクが体中を襲った。

考えても見てくれ。

ろくに後ろも振り向けない状態で、
まっ暗闇の中で響くようなカエルの鳴き声だぞ。

俺の心拍はもう限界レベルだった。

で、耐え切れなくなって、
必死の思いで電気つけて、
その日はずっとゲームやって朝を待った。

そんな日に限って、
やり終えて飽きて放置してるゲームしかなくて、
ずっと夜が続くような感覚だった。

まぁ中学生だし、
そんなのは3日もあれば忘れる。

俺も例に漏れず、
3日で忘れて友達とポケモンだのジャンプだのの話題で
盛り上がってた。

で、何ヶ月かたって、
夕食食って8時位に
ハリーポッターのアズカバンの囚人のTVで予告が始まった。

で、思い出した。

バジリスクのこと。

カエルの鳴き声のこと。

まるで条件反射みたいに
俺はまたゾクゾクとした。

更に俺を追い詰めるみたいに雨が降り始めた。

それだけじゃない。

その時居間に居たんだが、
姉ちゃんが秘密の部屋のビデオを再生し始めた。

今にして思えば、
アズカバンが公開されるんだから
おさらいとして見直すのは当たり前の行動だけど、
その時の俺には、
姉ちゃんがまるで何かに取り憑かれたかのように見えた。

更に普段は一緒にビデオなんか見ない両親まで
秘密の部屋一緒に見るって感じになってたから、
居間になんかいたら気が狂いそうだった俺は、
二階に逃げようとした。

でも姉ちゃんと両親の3人は
一階の居間で秘密の部屋見てるから、
二階には俺以外誰もいない状況だった。

もう無理だった。

俺は

「コンビニ行ってくる!」

って言って逃げるように外に飛び出た。

なんであんなに恐ろしかったのかはわからない。

ゴキブリとかナメクジに
生理的な恐怖を感じる人みたいに
俺は多分、バジリスクっていうか
その一連の空気に生理的な恐怖を感じるようになったんだと思う。

で、外に出た俺は、
そのまま散歩を始めた。

夜道なんて
どう考えても誰もいない2階より怖いのに、
その時の俺は夜道に何も恐怖を感じなかった。

で、先にも書いた、
「両脇が田んぼになってる道」を通って
コンビニに行こうとした。

その瞬間、
また俺をゾクゾクが襲った。

右の田んぼから、左の田んぼへの
カエルの大行進。

卵の世話か巣の引っ越しかしらんけど、
とにかく10匹位のカエルが
「ゲコ」「ゲコ」って鳴きながら
道の真ん中に居座ってた。

俺は本当にこいつらに取り憑かれんじゃないかって錯乱して、
そのカエルを全部踏み潰した。

バジリスクで恐ろしくなって、
二階に行こうとして恐ろしくなって、
その矢先にカエルの群れ。

中学生の俺には
耐えられるわけもなかったんだと思う。

それで、このまま外にいたら何かある、
何か起こると思って家に逃げ帰った。

もうバジリスクでもいい、
皆がいる場所に居たかった。

そしたらそこに
じーちゃんとばーちゃんも加わって見てた。

どこか安心した俺は部屋に入った。

その瞬間にTVを見て、
俺はまた恐怖した。

TVに映ってたのは
ちょうどハーマイオニーが石化して
保健室に寝かされてるシーンだった。

もう俺の頭の中で何かが切れた。

俺はそのまま二階に行って、
電気つけたまま布団被って、
目をつぶった。

もうそれしか逃げ場がないような感じだった。

なんで家族全員で
ハーマイオニーの石化シーンで集合してるんだよ、
なんで俺が帰った瞬間そのシーンなんだよって。

布団被ったままでどのくらい居たんだろうか。

しばらく立って俺は気付いた。

あの時のまんまだってことに。

そして、案の定聞こえてきた。

あの時よりも、
耳じゃなく脳に響くような声で、
「ゲコ」って。

もうその後はどうしてたか覚えてない。

「幽霊や妖怪は恐怖心に寄ってくる」

って言うけど、
蛇のバジリスクに恐怖して、
カエルの霊が近づいてくるなんて、
意味がわからなかった。

俺は蛇を怖がってるのに、
なんでそれに誘われて
同じように蛇を恐れるはずのカエルが近づいてくるのか。

もうそろそろ精神的におかしくなりそうだったから、
俺は近くの神社に行った。

田舎だから、
神社なんてその辺にいくらでもあった。

で、神社の神主さんに事の経緯話した。

俺的にはカエルを踏みつぶしたのが一番怖かったんだけど

「夜にカエルを踏みつぶしたのは正解だった」

とか言われて

「は?」

って思わず口にした。

なんでもカエルは、
蛇に恐怖する俺を

「仲間だと思って」

近づいたらしい。

人の恐怖心ってのは、
まぁ厨二っぽく言えば、
どんな物よりも大きな「霊的エネルギー」を持つらしい。

それを本能でしか動いてない爬虫類は
敏感に察知するらしい。

で、それを察知したカエルが、

「俺の所に向かっていた」

とか言って俺はまたゾッとした。

ビデオで秘密の部屋見たときは、
すぐに忘れたからカエルも察知できなくなったけど、
今度は結果的に外に飛び出た俺から近づいてきたから、
ああいう感じに遭遇したんだと。

あの時聞こえた鳴き声は、
いわゆる共鳴、
厨二的に言えばテレパシーでカエルの鳴き声が
就寝前で本能的にしか動いてない俺の脳に響いたらしい。

でも、俺がその時踏みつぶしたから、
カエルは俺を蛇みたいな天敵として判断して
もう仲間として迎えに来ることはないらしい。

で、いちおう供養もしてもらって、
俺は一安心して帰ろうとした。

不思議なことにバジリスクのこと考えても
何の恐怖も感じなくなったし、

「俺もしかしてカエルになりかけてた?」

とかそんな馬鹿げた妄想も考えながら、
笑い話として話せそうなくらい
気楽に考えれるようになった。

でも、俺がカエルを潰すことで解決したんなら、
その夜に聞こえてきた、
脳に響くような蛙の声は何だったのか?

そのことを神主さんに話そうかなんて思った矢先、
また聞こえてきた。

鳴き声が。

しかも

「グェ~イッ、ゲロゲロッ」

とか、
なんか笑ってるような感じの鳴き声だった。

その方向を見ると、
茂みの中に、
一匹のウシガエルが居た。

そしてそのウシガエルは、
喉を鳴らしながらにた~っと、
まるで器具かなんかで無理やり口を広げたみたいに笑って、
茂みの奥に消えていった。

その瞬間、神主さんが

「あれは人やなぁ・・・」

とかつぶやいた

聞くと、見た目はカエルでも、
感じる物は人に近いものだったらしい。

神主さんは、

「おそらく、
仲間をつくろうとしとるんやなぁ。
経緯はわからんが、
あいつは人からカエルになって、
道端のカエルを人が犬を飼うみたいに操って、
今回のお前みたいなのを
同じようにカエルに変えようとしとるんやな」

と言っていた。

多分、あいつが2度めの夜、
最後の攻撃みたいな感じで、
俺に鳴き声を送ってきたんだと思う。

頭に直接カエルの声を送る、
強制手段みたいな感じだろう。

でも俺はその翌日
すぐにこうやって神社に来てお祓いしてもらったから、
助かった。

あの無理やりこじ開けたような笑顔は

「運が良かったな」

とでも言いたかったのか・・・。

多分、あいつは
今でもどこかで仲間を作ろうとしてるんだと思う。

カエルと同じように蛇に恐怖を抱いた人間を探して、
またどこかの耳元で、
「ゲコ」って鳴いてるかもしれない・・・。

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