むかし石川県のある山間の村で
不思議な事が起こったそうな。

村人が山へ出かけ、
山菜採りなどに行ったところ
山の遠くでゴロゴロと聞いたこともないような音がしたそうだ。

他の村人も
山に出かけた時にたびたび聞いたという。

そしてそれが

「雷様が怒ったんか」
「どっかで雪崩れかもしれねぇ」

と村人の間で噂が広まり、
その後もたびたび村人が山に入ると
ゴロゴロという音を聞いたそうな。

それからしばらくして
ある村人が村で騒いでいた。

「ゴロゴロの音が大きくなって近くに来たから、
驚いて転げながら帰ってきたわけよ」

村人達で調べに行ったが天気はよく、
山にはいつもと何も変わりはなかったようだ。

みな首を傾げたが、
そこからパタッとゴロゴロを聞くことはなくなったそうな。

少し経って、
その村にみすぼらしい格好をした修行僧がやって来た。

僧が宿と食事を恵んでもらうため家を回っていると、
ある村人が迎え入れた。

「うちには何も無いが、
こんなとこでよければ」

「かたじけない、お世話になります」

僧は言葉に甘え恵みを受け、
しばらく宿を借りる事となった。

泊まっている事を聞き付けた村の長は、
僧の所にやって来て話をした。

「うちの村は何もない辺鄙なところだが、
ちょうどよかった話を聞いてください」

村の長は起こった出来事を話し始めた。

「最近村人の間で妙な事が起きていて、
山に入った村人達が幻のような獣に化かされたような目にあって、
皆恐れてしまってる」

「それは難儀ですな」

僧は答えた。

村の長はゴロゴロの音の事を話をした。

「音はなくなったんだが、
それから村人の間で変なことが起きている」

村の長いわく、
山に入った村人が姿のない足音だけの何者かに追われたり、
何かの得体の知れない物の行列を見たりしたという。

また雷にうたれた様な人間もいたそうだ。

「それを聞いた村人が恐れてしまってな、
山に近付かなくなってしまった」

「私が何か力になれればと思います。
まだ修行の身ですが」

僧はいい、
山に向かい祈る事を約束した。

翌日村の長に連れられ、
僧は山に向かった。

山の中の獣道を案内され辿っていくと、
奥には小さな祠があり小さな像が飾られてあった。

「この祠は神の怒りを沈めるためにつくりました、
ここでお祈りされてはいかがですか」

「分かりました」

洞窟のような小さな祠のなかには
同じく像が置いてあった。

「何が必要かは分かりませんが、
こんなものでもよろしいのでしょうか」

「充分でございます。
では祈らせていただきます」

僧が祠の中で祈ろうと座り込んだその時、
祠の入り口が閉められてしまった。

僧が気付いて開けようにもびくともしない。

どこからか煙が入れられた。

祠の外では村人達が祈っていた。

僧は人柱とされたのだ。

この村では銅で生計をたてる者が多かった。

鉱山で働く者にとってゴロゴロと言う音は恐怖だった。

健康を害すものがあらわれ、
村人達は恐怖に怯え、噂が広まった。

収拾がつかなくなった村の長が人柱を立てることで、
村人達の恐怖を逸らそうとしたのだった。

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