10歳から12歳までの頃の話。

メンヘラって思われるかもしれないけど、
私は常に多重人格の様な体験をしてた。

とはいっても、
TVで観る様な別人格が現れるとかでは無く、
頭の中で声が聞こえる事がしばしばあった。

声の主は男と女。

声の感じは、
若めの成人男女、といった感じだった。

確かにはっきりと(幻聴って言われるかもしれないけど)聞こえてた。

当時私は中学受験を控えてて、
都内でもよくあるNのバッグの塾に通ってた。

初めて声を聞いたのは、
その塾のテスト中だったと思う。

突然女性の声で、

『何やってるの?』

って声が聞こえた。

私は驚き周囲を確認するも、
近くに大人の姿は無い。

すると今度は男の声で、

『お前さー、ツキが聞いてるだろ?答えてやれよ』

って。

月?

何のことか分からなかった。

頭がおかしくなったのかと思った。

それでもしつこく『おーい』とか聞いてくるのだが、
もちろん厳しい塾だし、
私語なんかしてたら怒られる!って思っていたので、
ずっと無視をしていた。

その帰り道、
バスで帰る為に駅まで歩きながら、
あの2人の事を考えていた。

周りの雑踏に掻き消されるぐらいの小さな声で、

「ツキ…」

って言ってみた。

すると、

『あ、聞こえてたんだね。
名前覚えてくれたんだ。
えらいえらい』

とツキ。

この時は冷や汗が出るほど驚いた。

男の方は、
無視したことが気に入らなかったのか怒っていた。

本当に頭がおかしくなったんだと思った。

当時看護婦をしていた母に相談してみたところ、

「また聞こえたら病院に行ってみる?」

って言われた。

”頭がおかしくなった人の病院は怖い”

っていうのが当時の私の印象で、
親にはもう相談出来ないって子供心にそう決めた。

日が経つにつれその現象(幻聴?)にもなれた私は、
気付かれないようにコソコソと、
その2人と会話をする様になった。

何回か話すにつれ、
男は『ギンだよ』って教えてくれた。

ギンの性格は短気で、
口が悪いが頼れる存在。

当時の私には、
心強い兄の様に感じていた。

逆にツキは優しく、
何でも知っていて穏やかな話し方をする女性だった。

私はこの2人が本当に好きだった。

例えばギンは、
自分の声が周りに聞こえていないのをいい事に、
友人の話を

『こいつおもしろいな~』

って笑っていたり、
私が親に怒られている間は、

『母ちゃん話長いね~』

とか煽り、
こっちが笑いをこらえるのに必死だった時もあった。

また、テストの時間、
小声で頭のいいツキ♀に答えを聞こうとし、
ギン♂に怒鳴られるなんて事もあった。

ツキはテストの時間、

『ココは前に○○先生が~』

とか、ちょっとしたヒントをくれた。

なかでもツキの話は、
こどもの私でも興味津々だった。

大半がうろ覚えなのだが、
確実に覚えているものをひとつ。

ツキ『○○(←私)、地球は本当に丸いと思う?』

私「うん。丸い」

ツキ『本当にそう思う?』

私「何で?そう教わったし、テレビでも地球は丸いよ?」

ツキ『丸いって言われてるから、そう思うのかもしれないでしょ?』

私「丸くないって思ってたのは昔の人でしょ?ツキは昔の人なの?」

ツキ『教えない。でも○○(←私)には教えてあげる。
地球は丸でも平らでもないわ』

私「??・・・全然分かんないよ」

ツキ『ごめんね。でもこれだけは憶えておいて。
地球の壁の向こうに私達はいるから』
(ここが非常に印象的だった)

私「壁?」

ツキ『いつか会いに来てね』

私「うん。絶対行く。約束する」

ギン『おい、ツキ!もーいいだろ。
そろそろ母ちゃんが飯呼びに来るぞ』

私「分かった!ふたりとも『シーッ』」

んで即母親登場みたいな。

でも私は、妹にその話をしてしまい、
妹から母親に伝わり、
病院へ連れて行かれる事になる。

私は頭がおかしくなってもいいから、
2人とは離れたくなかったので、
嫌がって泣きじゃくった。

病院では軽いテスト?
(クイズから絵を見せられたり、テレビを見て感想を述べたり)を行ったのだが、
驚くべき事に、その時だけは問題の答え方は、全てギンが教えてくれた。

そのぐらいありえなかった。

結果問題はなく、
2人はそれからも私と共にいた。

だが2年ぐらい経ったある日、
毎日会話をしていたのにもかかわらず、
だんだんとギンの声が聞こえなくなってきた。

遠くから声が聞こえるように、
小さくしか聞こえないのだ。

私は不安になってツキに聞いた。

ツキは言った。

『あなたが大人になるにつれ私達の声は聞こえなくなるの』

と。

私は大人になんてなりたくないから、
離れないでって嘆願したが、
ツキは『ごめんなさい』としか言わなかった。

ギンの声が消え、
そしてツキの声が消えた時、
私は初めて学校を休み、
1日中布団の中で泣いていた。

あれから10年以上経つが、
あの2人の事をふと思い出す。

今でも誰か別のこどもと、
楽しくお喋りをしているのだろうか。

地球の壁の向こうにいる友達へ、
「ありがとう」とひとこと言いたかったな。

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