…彼女が小学校低学年のとき、
よく電車に乗って祖母の家へ遊びに行っていた。

その祖母に

「電車に乗る時は、
ホームと電車の隙間に落ちないよう気をつけなさい」

とよく言われた。

いつもは優しい祖母も、
その時は厳しい口調で話しかけるため、
電車が来るとすぐ顔を俯けて
気をつけるクセがついてしまった。

ある日、いつものように祖母の家からの帰り、
一人で地下鉄を待っていた。

電車が入ってくると、
彼女はその空間を見つめはじめた。

…電車が止まり、扉が開く。

慎重にホームから車両へ、
俯きながら足を踏み出した瞬間。

その隙間から、
逆さ向きの笑顔が見えたのだという。

それは首だけの、男性の笑顔だった。

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