高校生の頃に見た、レストランの夢。

名前は全て仮名です

私は鈴木有香といいます。

夢で私は、
山の中にある大きなレストランで
アルバイト初日を迎えていました。

裏口から入り着替えを終えると、
スタッフの方が

「鈴木さんですね。
ホール担当の梅原です、よろしく。
これがうちのメニューね」

とメニュー表を渡してくれました。

・A田B夫のサラダ
・A田B夫のスープ…
・A岡B子のサラダ
・A岡B子のスープ…

なぜメニューに名前が?と思いましたが、
ふと厨房を見るとシェフの中に

「A田B夫」
「A岡B子」

の名札をつけた人が。

なるほど、ここはシェフを指名して
料理を作ってもらえるレストランなのでした。

私も梅原さんに「鈴木有香」と書かれた名札をもらい、
それを付けていざアルバイト開始。

ホールに出ると、
保育園~中学校まで一緒だった佐野くんという男の子が
お客さんとして来ていました。

特に仲が良かったわけでもないので

「久しぶり、奇遇だね」

と一言ふたこと挨拶を交わし、
他のお席へオーダーをとりに行きました。

「ご注文はお決まりでしょうか」

「えーと…じゃあこの、『梅原優子のスープ』ひとつ」

「えっ?」

梅原さんの名札には「梅原優子」とあったので
お客さんが彼女を指名していることは確かなのですが、
梅原さんはシェフじゃなくホール担当だったはず…

もしかして料理もできるのかな?

とりあえず

「かしこまりました」

と言って厨房に戻り、
大声で注文を伝えました。

「『梅原優子のスープ』ひとつ、
お願いしまーす!」

ガッシャーン!!!!

大きな音に驚いて振り返ると、
梅原さんが真っ青な顔でお盆を落とし立ちすくんでいました。

「梅原さん!大丈夫ですか?
あの、指名入ったのでお料理お願いしま…」

「嫌あああああああ!!」

急に叫び出す梅原さん。

わけがわからず頭の中?でいっぱいな私。

すると、シェフたちが無表情で一斉に梅原さんに掴み掛かり、
抵抗する彼女を引きずって
厨房の真ん中にある調理台へ載せ、
金具で固定しました。

「死にたくない!!
おいしくないです!!
おいしくないですから!!!!」

ぎゃあぎゃあと叫び
手足をバタバタと動かし続ける梅原さんに、
1人のシェフが大きな斧のような物を振り下ろし

ドンッ。

梅原さんは静かになりました。

シェフは更にドンッ、ドンッと梅原さんの手足に斧を振り下ろしてゆき、
梅原さんだった肉を数人で手分けしてラップで包み冷凍庫へしまいました。

1人のシェフだけは梅原さんの頭部を鍋の中に入れ、
コトコトと煮だしています。

その間、その場にいたスタッフは皆死んだような無表情で、
まるで何事でもないかのように仕事を進めていました。

ヤバい。

メニューに書いてあった名前はシェフの名前なんかじゃなくて、
食材の名前だったんだ。

「梅原優子のスープ」は、
そのまま梅原さんを煮たスープという意味だったんだ。

ヤバい。ヤバい。このままじゃいつか私も注文される。逃げなきゃ。逃げなきゃ…

「『鈴木有香のステーキ』ひとつ、お願いしまーす!」

瞬間、先ほどのシェフたちが一斉に私の方を向きました。

注文された。

「うわぁあぁぁああぁ!!」

声にならない悲鳴を上げながら、
私は一目散に厨房を飛び出しました。

ホールに出て振り向くと、
シェフたちが血だらけの斧やチェーンソーを無表情のまま振りかざし
ものすごい勢いで追ってきています。

このままじゃ殺される。

がむしゃらに走ります。

でも、ここは山の中だし、
今外に出たところで追いつかれて捕まるだけだ。ど

うしよう。

そうだ!

私は走りながら著ていた制服を脱ぎ捨て、Tシャツ姿になると、
佐野くんの隣の席に

「ごめん、ちょっと入れて!」

と飛び込むように座りました。

「鈴木、どうしたの?バイト中だろ」

「ちょっとね!
少しの間なんでもないフリしてもらってもいい?」

息を切らしながら佐野くんにお願いしました。

お客さんのフリをして
客席に紛れ込みこの場をやり過ごす作戦です。

バレないように必死で身を屈め、
顔を伏せます。

「ちょっとね、じゃないよ。
バイト中にサボっちゃダメだろ。
戻りなよ」

「佐野くんごめん、今だけだから。
ちょっとだけお客さんのフリさせて!」

「いいから早く廚房戻れよ。
お前注文したの、俺なんだから」

「えっ?」

顔を上げると目の前には、
笑顔の佐野くんと、チェーンソーを振り上げたシェフが立っていました。

チェーンソーを振り下ろされた瞬間、
夢から目が覚めました。

ベッドの中で全身にまとわりついた気持ちの悪い汗の感触を、
今でも覚えています。

夢というものは普通目覚めた瞬間からどんどん忘れていってしまうものですが、
この夢だけはいつまでたっても脳にこびりついて離れませんでした。

梅原さんの血の色も、
最後の佐野くんの低い声も。

数年後、夢の恐怖も薄れ、
私はレストランでアルバイトを始めました。

成人式で佐野くんを見かけ少し怖かったものの、
特に話はしませんでした。

当然です。

あれはただの私の夢で、
佐野くん本人は関係ないのですから。

成人式から1週間ほど経った頃、
佐野くんがバイト先に1人でやって来ました。

レストランと佐野くんという組み合わせに一瞬硬直しましたが、
気を取り直しました。

偶然に決まっています。

「奇遇だね、いらっしゃいませ」

と声をかけ席に案内しようとすると、
佐野くんは笑顔で

「ねぇまだ食べてないんだけど」

それだけ言うと、
お店を出て行きました。

一気に、あの嫌な汗が背中に伝うのを感じました。

すぐにアルバイトは辞めました。

偶然だと自分に言い聞かせているのですが、
佐野くんが何を「まだ食べてない」のか、
どうしても嫌な予感がしてしまいます。

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