数十年前の夏の夜の事。

当時小学生だった俺と兄は、
良く覚えて無いんだが何かの拍子で両親を怒らせてしまった。

二人とも家から叩き出され、
当所なく家の周辺をうろついていた。

結構遅い時間帯だったため、
友人の家にほとぼりが冷めるまで避難する訳にもいかず、
途方にくれてた。

そんな時、
ふと思い出したかのように兄が

「そうだ、上の倉庫に行くか」

と提案した。

“上の倉庫”と言うのは、
俺ん家のすぐ裏は山になっており、
その山の入り口にある倉庫の事で、
大昔(昭和30年~40年位)にウチの祖父祖母が使ってた家を、
倉庫用に改修した建物の事だ。

俺ん家では廃家電など、
指定日がある廃品を回収当日までそこに置く様にしていた。

祖父祖母はその家を出て、
俺ん家と同居するようになったのだが、
その時

「あの家は何か住みにくい」

と言っていたらしい。

さて、
兄の提案で上の倉庫へ言ってみると意外と小綺麗で、
その建物に入る事に何ら抵抗は無かった。

窓には薄汚れてスリガラスのようになったガラス戸が嵌っており、
外から月光が入り込んできて思ったよりも明るい。

しばらく兄と二人で両親へのグチを言い合っていたのだが、
どうにも倉庫の中が涼しい事に気付いた。

真夏の夜だったから暑くないのは非常に助かる。

逆に居心地が良いなどと思ったものだった。

暫くして兄が異変に気付いた。

小屋の中が涼しい所か寒くなって来ていたのだ。

エアコンなどが点いている訳ではない。

なぜならエアコンなど元々この倉庫に装備されていない。

俺らは幼心に『妙だな』とは思ったが、
他に行く所があるわけでも無く、
またそこに居られないと言う様な寒さでもなかったせいもあり、
建物内に居続けた。

相変わらずグチは続く。

しかし、気のせいか
兄の話すスピードがゆっくりになった。

ついでに言うと、
顔は横に居る俺の方を見ているんだが、
目線は何故か正面の窓ガラスを凝視している。

そのうち話すことを止めてしまった。

俺はどうしたんだろうと思い、
窓ガラスの方を見た。

「!?」

窓ガラスに人の顔がぼんやり映っている。

どうもこちらを覗き込もうとしている様子だ。

俺らは

『ヤバ、親父が探しに来たぞ』

と思い、
息を殺してその人影を伺った。

おかしな事に、
その人影は窓ガラスの前に立っているようだが、
微動だにしない。

じっと一点に立っているようだ。

それに、男性っぽいが親父とはシルエットが異なる。

どうやら俺らを探しに来た家の者ではない事は分かった。

一体誰なんだろう?

向こうもこちらも全く動かず、
互いにガラス越しに凝視しあう様な感じだ。

すると、
相手の顔の左右横に小さな黒い影が出来た。

窓ガラスに両手をついたんだなと俺は思った。

だが、兄は強烈な事を口にした。

「おい、顔と手は見えるけど、体が全然見えんよ…。
お前、どう思う…?」

言われてみれば、
いくらスリガラス状態とは言え、
そんな風に中を覗き込もうとガラスに近寄れば、
必ず体の影も多少は見える筈だ。

するとこの人物には体というものが存在しないのか?

それって人なのか?

俺は恐怖のあまり吐き気と頭痛を覚えた。

世の中にこんな恐ろしい事があろうとは。

今や完全に小さな影はしっかりとした2つの手のひらの形となり、
窓ガラスにへばりついている。

兄は無言で俺の手を取ると、
一目散に出口に向かって走り出した。

倉庫を出て一目散に家へ向かった。

しかし両親の元へは行かず、
祖父祖母の部屋へ駆け込んだ。

そして今起こった事を全て話した。

祖父祖母はうんうんと頷きながら聞いてくれた。

最後に

「もうあそこへはいっちゃいけんよ…」

とだけ俺らに言うと、
両親に俺らを許すよう取り計らってくれた。

今でもたまにあの時の事を思い出すが、
あのままあそこに残ってたら俺らは一体どうなってしまっていたのか。

祖父祖母が何か住みにくい家と言っていたのは、
もしかしたらアレが原因だったのだろうか。

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