約20年程前
(日時や登場人物は関係者に迷惑になるといけないので、
全て微妙にズラします)転勤になり、
隣にある雪深い地方都市に移った。

そこで職場のパートさんに、
数か月前にエレベーター事故で
清掃会社のおばさんが亡くなったと聞かされた。

夜、終業後に
5階からエレベーターを呼んで
階下に降りようとしたら、
エレベーターの箱本体が来ていないにも関わらずドアが開き、
転落死したとの事。

隣の市の自分の会社の事故とはいえ、
県が違ったため全く知らなかった。
(客商売の為、地方紙とかでは報じたのだろうが、
全国版では報道しなかった)

当時それを聞いた時は、
心霊的な事に興味もなかったので、
気にせず毎日23時頃まで仕事をしていた。

会社の人間はみんな21時頃には帰ってしまう為、
夜は自分、警備員さん一人、
清掃会社の方3~5人という状況が多かった。

当時はサービス残業に対して労基の監視も甘かったので、
18時が終業だったのだが、
いつも23時頃に5階の事務所に
タイムカードをスキャンしに行っていた。

警備の方の迷惑になる為、
23時15分には必ず退社するという約束で、
警備の方には、
会社に長時間勤務している事は内緒にしてもらっていた。

その日もいつものように23時頃タイムカードを打ち、
事務所を出てエレベーター乗り場に向かった。

会社は古いビル(築30年以上)で、
改装を実施した時に、
エレベーターを大きなサイズに取り換えた直後という事もあり、
亡くなった方への賠償は、エレベーター製造会社、工事請負会社が支払い、
エレベーターの箱も無償交換されたとの事。

事務所を出たところで、
通路を曲がって消えた小柄なおばさんを見かけたのだが、
最初は清掃の方だと思い、
エレベーターで先に一人で降りられては困ると思い、
急いで後を追った。

エレベーター乗り場の前に行くと
…誰もいない。

古い建物の為、
非常灯もなく窓から差し込む月明かりのみで、
薄暗いエレベーター乗り場前には自分一人。

資材が放置してあり人が隠れる事は可能だが、
今そんな事する意味ないし…。

あれ?おばさんいたよな…

不思議に思いながら
エレベーターのボタンを押そうとパネルをみると、
何故か数分前に自分が5階に来るのに使ったエレベーターが3階にある。

警備員さんが使った?

それよりも、
さっきのおばさんは何処いったんだよ…

その時に、
押していないエレベーターのランプが4階…5階…と登ってきた。

あれ、警備員さんが事務所の詮錠にくるのかな?
と思い待っていると、
スーッとエレベーターの扉が開いた。

中には…誰も乗っていない。

その時にやっと聞かされたエレベーター事故の事を思い出して、
怖くなり震えた。

怖くてエレベーターの中に入る事が出来ない。

どうしよう、どうしようと、
エレベーターの『開』ボタンを押したままガクブルしていた。

エレベーターとは少し離れた場所に階段があるのだが、
物凄く急な階段で明かりが一切ないので、
そちらを使うのは危険という意味で怖かった。

怖くて怖くて仕方無かったのだが、
23時15分の約束の事もあるので、
恐る恐るエレベーターに乗り込み1階へと向かった。

一階の警備員室では警備員さんがのんびりとくつろいでおり、
やはり警備員さんではなさそう。

「まだ誰かいますか?」

と警備員さんに声をかけると、

「もう誰もいないよ」

との返答。

警備員さんには何も言わず急いで会社を出たが、
一人暮らしだった為に家に帰るのが怖く、
一時間以上コンビニで立ち読みをして恐怖心を紛らわせてから、
帰宅したっけな…。

ここまでが第一部。

この数カ月後にもっと変な事が実はあった。

数日間は気味が悪く
エレベーターに近づくのも怖かったので、
タイムカードも早めにスキャンして、
夜にエレベーターは使わないようにしていた。

仕事の業績も順調で、
自分の能力もあがってきているのがわかってきたので、
いつしかその夜の体験も忘れて、
仕事に又没頭するようになった。

職場の人間には、
一切その夜の体験は話さなかった。
(変なやつと思われるのもいやだったので)

一年ぐらい経って、
同業他社で修業を終えた社長の息子が、
上司として着任してきた。

仕事熱心な上司で、
毎日22時頃までデスクワークをこなして帰宅するのがデフォ。

自分は建物の一階で毎日働いていたのだが、
22時過ぎに、エレベーターの側にある
急な真っ暗な階段を使い一階まで降りてきて、

「○○君、(僕)早く帰りよ」

と必ず声をかけてくれて、
少しだけ立ち話をして上司が帰り、
自分は仕事を続行していた。

半年近くそんな事が続いていたのに、
ある頃から帰宅する上司に全く会わない日が続いた。

ちなみにエレベーターを使用して下に降りると、
一階の自分の職場の裏側になる為、
働いている自分は気付く事はありません。

急な階段を使用すると、
自分の職場の真ん前に降りる事になり、
直にわかる事になります。

会社の建物内で実施した他の社員の送別会の時に、
酒を注ぎに行った際、

自分「最近、早く帰るようにしたんですか?
夜に合わないですよね。
ひょっとして何かヤバいもんでも見たんですか?」

上司「えっ、ああ、いつものように22時頃までやってるよ。
もう階段じゃなくエレベーターを使ってるんだ。
でも…やばいものって何のこと?」

上司がちょっと険しい顔で聞いてきた。

酒の席だったので、
冗談めかして昔のエレベーターであった事を少しだけ話した。

話を聞いた上司が、

「この後、外で2人で飲もう」

と誘ってきた。

上司は自分より一つ年下で話しやすかったのでOKして、
送別会終了後、
近所の飲み屋で落ち合って再度飲みだした。

上司が着任当初にエレベーターではなく、
薄暗い階段を使用していたのは、
一応エレベーターは物販の運送用で、
人のみの使用は禁止が決まりの為。

最初はお互いの馬鹿話、
だんだんと仕事の話へ…。

そこで自分の体験した事をかなり詳しく聞かれ、
全てを話した。

上司はこの建物であった事件を
家でも会社からも知らされていなかったようで、
根掘り葉掘り聞かれた。

上司「実は階段を使わなくなったのには訳がある。
いつものように階段を使って下に向かう途中、
3階の踊り場で変なものを見た…」

以下は上司から聞いた内容です。

上司は踊り場で、
物凄く恐ろしい顔でこちらを睨みつけるおばさんを見たんだとか。

薄暗い階段ではあるのだが、
輪郭から色彩まではっきりとわかるぐらいでそのおばさんを見てしまい、
おもわず何かあったのかな?と思い、

上司「どうかしたんですか?清掃の方ですよね?」

おばさん「…」

何も答えないおばさんを不思議に思いながら、
どうしよう…と再度声をかけようとしたところで、
おばさんが急にパッと消えてしまったとの事。

上司もえっと驚き、
急いで5階の事務所に戻り、
気を落ち着かせてからエレベーターを使って帰宅したらしい。

警備員さんは巡回中で警備員室に不在だった為、
警備員さんには何も告げずに帰宅し、
やはりその事は誰にも言えず、
気にかかっていたらしい。
(かなり大きな会社の次期社長の為、変な事は言えないらしい)

自分が見た場所、
事故があった場所はエレベーター周辺なので、
何故階段で目撃したのか?

辻褄があわないが、
上司が見たおばさんは、
間違いなく清掃会社の制服を着ていたとの事。

自分は小柄なおばさんだったという事は間違いないのだが、
服装や表情はイマイチはっきり記憶がない。

結局、

「この話は会社ではしないでくれ」

と頼まれ、
家で社長に相談してみるとの事。

上司は階段を使うのが怖いらしく、
ビビりながらしばらくエレベーターを使って帰宅。

わざわざ一階の自分の職場まで立ち寄って、

上司「今日は大丈夫、何も出なかった」

少し後に、

「休日を使って建物をお祓いをした」

と、上司が教えてくれました。

今は自分も上司も、
例の建物とは違う別の県の営業所で働いているため、
お互い話す事はありません。

今も事故のあった建物は、
何事もなく使用されています。

お祓いの効果がある事を信じたいものです。

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