僕は幼い頃から、
人には見えないものが見えていた・・・。

なんて、まあよく物語の冒頭で見るけど、
今から語る話は、僕が中学生だった頃の話だ。

確かその時はお盆で、
僕の家には沢山の親戚の人たちが集まっていた。

母さん方の親戚らしい。

一回も会った記憶が無い人ばかりで、
これじゃやってらんない・・・という訳で、
僕は部屋にこもって親戚が帰るのを待つことにした。

音楽を聴きながら、漫画を読む。

至福の時だ。

(闇遊戯まじぱねぇ・・・)

なんて興奮していたら、
部屋のドアから急に母さんが入ってきた。

その横には、
保育園くらいの女の子が居た。

「ねえ、この子、皆が帰るまで遊んであげて」

僕は子供がとても苦手だったけど、
鬼より怖い母さんの言いつけは守らないわけにはいかなかった。

「分かった、いいよ」

と言うと、
女の子は僕の部屋に入ってくる。

「じゃあね、まかせたよ」

母さんは部屋を後にした。

「何してあそぼうか・・・
あ、その人形で遊ぶか?」

女の子は少女をかたどった人形を持っていた。

ちょうど大きさはメルちゃんくらい(分かる?)で、
4・5歳の女の子が持つと、少し大きく見えた。

別におもちゃ会社の物ではなく、
見た目はね、少し手作り風の普通の人形だった。

見た目はね。

冒頭で述べた通り、霊感のおかげか、
女の子の持っている人形が
とてもマズイものだと一目で分かった。

でもまあ、今日一日だけの出会いだし、
たいしたとこはない・・・
とタカをくくってしまった。

それがいけなかった。

「あのね、私がお母さん。
この子は子供ね」

なるほど・・・おままごとね。

僕は妹の部屋から
適当な人形や小道具を持ってくると、
おままごとに励んだ。

ひとしきり遊んだところで、
夜になると女の子は帰っていった。

母さんはドタバタと忙しかったせいか、
ぐったりしていたので、
一人で夕飯を済ませ、風呂に入り、
僕は部屋に戻って漫画の続きをよむことにした。

(オベリスク~オシリウス~・・・ん?)

部屋に入るとベッドの上に、
あの、人形が横たわっていた。

これは非常にやばい。

すぐさま持ち出し、
母さんのところへ行った。

「ねえ、これ、あの女の子が忘れてったんだけど」

「ええ~!?うーん、分かった。連絡しておくわ」

良かった・・・
とほっとしていると、
母さんは

「でもそれ、不気味だから持っててよ」

と言い、
人形は突き返されてしまった。

ぶつぶつを文句を言いながら部屋に戻る。

なんか嫌な予感がするし、
少し早かったけど、寝ることにした。

天井を仰ぐ。

蒸し暑くて寝られたもんじゃなかった。

僕はエアコンをつけようと、
机の上にあったリモコンを取るために、
ベッドから起き上がった。

ふいに、違和感に気づいた。

(・・・誰かに見られているのか)

多分、視線の主は
ベランダにつながるカーテンの向こうに居る。

別に、よくあることだと自分に言い聞かせ、
平常心を保ってカーテンを少し開けて覗いた。

髪の長い、顔が青白い女だった。

大した代物じゃないと判断した僕は、
ベランダに出て

「オル゛アァ!!」

と叫んだ。

大抵のものは気力で押しのける。

これに限る。

予想通りに女が消えるのを確認した僕は、
やっと眠りにつける安心で、
エアコンをつけることを忘れたまま、
ベッドへと入った。

これで終わりと思ったのが間違いだった。

その日を境に、
毎日毎日女はベランダに立ち
不気味な視線を僕に向けるのだった。

原因は明らかにあの人形なわけで、
早く持って帰ってくれよ・・・と願うものの、
日に日に女はベランダから窓までの距離を詰めてくる。

そして金曜日の夜にはめでたくも、
べったりと顔を窓に付けて、
カリカリをガラスを引っ掻くわ、

「返して・・・返して・・・」

なんて呟いてくるわで、
結果的に僕は寝不足になってしまった。

土曜日の朝、
寝不足で死んでしまうのではないか・・・
と危険を感じた僕は、
近所にある馴染みの寺にかけこむことにした。

両手じゃ数えきれない程に世話になってきた寺だ。

そこには僕が破戒僧、
と言わしめる人物が居る

「よお、久しぶり。
部活と宿題で死んでるのかと」

この人だ。

また宿題なんて嫌なことを思い出させやがって・・・
と言おうと思ったが、そんな暇はない。

「お盆にね、親戚が集まったんですけど、
まあ色々あって人形に酷い目に遭わされてるんですよ」

「ふーん、で、その人形は?」

ああ、しまった・・・と思った。

うっかり問題の人形を忘れてしまったのだ。

僕はけっこう間抜けで、
こういうことがよくあった。

しかし、家に帰って持ってくるのは面倒くさい。

「別に構わんよ。大体予想はつく」

くっくっく・・・
とむかつく笑い方をする相手には腹が立ったが、
この人にはそんな態度は取ってはいけない。

「なにさ、まあ詳しいことは事務所で聞こうじゃないか」

その事務所というのは、
ちゃんと寺の中にある。

どこの寺でもそうなのかは知らないが、
経理の為の場所や生活スペースのような場所がある。

本堂とはまた違ったところに建てられたそこは、
いつも僕が坊主と雑談をしたり、
まあ、色んなことに使う、
いつもの建物なのだ。

事務所に入ると、
適当な椅子に座り、
坊主と向かい合った。

「また美人なのを連れてきたな、お前は」

「ええ、今後ろに居るんですか?」

「いや、お前んちだけど」

なんで人の家が見えるんだよ・・・
なんて突っ込みは、この人には無用だ。

普段、何をやっているのか見当もつかないのだから。

「単刀直入に、どうすればいいですかね?」

「捨てたらいいだろ」

「それくらいお前だって分かるだろう・・・」
みたいな顔をされたが、
そういうわけにもいかない。

「いや、僕のじゃないですから。
女の子のなんだから、
勝手に燃やしたりするのは気が引けるというか・・・」

「もう返せばいいじゃないか、
そうしたら消える」

「いや、その女の子の身に危険が・・・」

「その子、どうせお前の母親方の子だろう」

「そうですけど」

「なら大丈夫だ。お前が我慢すればいい」

ええ・・・と困り果てた僕に観念したのか、
坊主は

「はいはい、
俺がなんとかしておくから、
子供は帰って宿題しな」

と言うと、
面倒くさそうに禿げた頭を掻きながら、
本堂へと繋がる廊下へ消えた。

「ちょ、もう終わりですか」

「終わり終わり、お経を唱えなくちゃね~」

なんて、
いけしゃあしゃあと言う声が向こうから聞こえてきた。

取りつく島もないってか・・・
と諦めた僕は、家に戻った。

まあ、あの様子なら大丈夫なのか。

(ただいま~)

しんなりとリビングへ行くと、
父さんが横になってテレビを見ていた。

「さっき、お前の部屋にあった人形、
○○さんが持って帰ったよ」

僕の身にあったことも知らないで、
もののついでに言う父さんは眠たそうだった。

それからはと言うものの、
まるで心霊騒ぎなんて端から無かったように、
なんともない日々が過ぎた。

まあ、幽霊なんてこんなものか・・・と構えた僕が、
宿題三昧の、この夏最後の3日間を過ごすことになるのは、
まだ先の話。

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