二年前の不思議な体験。

当時俺は九州のド田舎の某ボロアパートに住んでた。

薄給な俺は仕事とバイトを掛け持ちしても
安いアパートの家賃を払うのがやっとだったんで
水道代や光熱費を気にした。

水道も出来るだけ使わず、
夜中でも電気を殆ど付けなかった。

例えば

「爪切りどこあったっけ?」

となったら電気を一瞬つけ、
爪切りの位置を一瞬で確認し
手探りで爪切りをとる、
といった具合だ。

だから俺の部屋はいつも暗く、
俺自身あまり騒がしいタイプではないので
外から見たら空き部屋のように見えたかもしれない。

さて、ここからが本題。

夜中、インドアな俺は
真っ暗な部屋の中でPSPをしていた。

音量は1でGE無印やってた。

すると、
突然俺の部屋のドアノブが『ガチャリ』と回された

昔から俺は部屋でエロ本読んでても
僅かな音や気配を感じると一瞬でエロ本を隠し、
母の目から逃れるという危険察知スキルを磨いていた。

そのためドアノブの回る僅かな音を
おれは聞き逃さなかった。

素早く音量の-ボタンを押し、
電源のスイッチをシャッ!と上にはね上げると
PSPを抱え込んだ。

この間0.5秒。

20年の年季が入った技である。

そして、それと同時に俺は考えた。

『チャイムも押さずに入ってくる知り合いなんていたか?』。

悲しいことに、
俺にはそんな気の置けない友人がいない。

それに、宅急便とかなら呼び鈴くらい鳴らすだろう。

俺は息を殺し、
真正面にある玄関ドアを睨みつけ、
誰かが入ってくるのを待った。

ドアがギギギ…と不快な音を立てて開いた。

さすがボロアパートのボロドアだ。

中に入ってきたのは
マツコデラックス(のようなもの)だった。

身長は160くらいで体重は100キロはあるだろうか。

マツコのような黒いすだれみたいな服も来ていた。

違うのは髪がすごく長くて
顔が見えないことだった。

そのせいで、
パッと見ではただの真っ黒いかたまりにしか見えなかった。

そいつは玄関に入ると
黙って佇んでいた。

俺はヤツに気付かれてはいけないと思い、
息の音とか布ズレの音とか、
とにかく息を殺し、
音を立てないようにした。

部屋は電気の消しているので真っ暗だ。

俺は玄関から入る月明かりでヤツの動きが少しは分かるが
ヤツからは真っ暗な部屋の中の真っ黒な服を着た俺が見えないはずだ。

・・・1分か、一時間か、膠着状態が続いた。

気配を消した俺は心の中で

『早く帰ってくれんかな~』

と思っていた。

すると、突然ヤツは

『8%-f8の3jxiwjかg8263[(%し;!!!』

と叫び出した。

俺は泣きそうになった。

正直、俺は最初キチガイが入ってきたと思った。

でも違った。

ヤツの発する言葉はお経だった。

おれはただの高卒底辺だから詳しくは無いが、
それでも所々にお経だとわかるフレーズがあった。

しかし、ヤツはそれを異常な速さで喋っていた。

早口で喋ってるとかじゃない。

録音した音声を早送りしたような速さだった。

声は高音で8倍速くらいの速さ。

人間が出せる音じゃない。

これは人間じゃない。

俺はずっと内心ガクブルしながら
ヤツが帰るのをまった。

よくみたらこいつ近づいてきてる。

マツコみたいな服だから
足が見えなくて良くわからなかったが
確かに玄関から廊下の途中まで来てる。

俺は

『もうダメかな…』

と思ったが、
不意に外で救急車のサイレンが聞こえてきた。

アパートのすぐ横を通ったのか、
かなり大きな音がした。

すると、ヤツは踵を返し、
これまた8倍速くらいの速さで玄関から出ていくと
ドアは閉まった。

多分人生でこんなに安堵した瞬間は無いね。

俺はすぐさま玄関の鍵を閉めに行った。

またヤツが来たら
今度こそおれの精神が持たない。

鍵が閉まっている

おかしい。

だっていまさっきヤツは普通にここから入ってきた。

ドアノブを握った手が震えてくる。

そういえばおれは
いつも外出する時以外はドアを閉めている。

今日だって閉めたはずだ。

ドアノブを握ったまま硬直する俺。

すると、
また遠くからやつの声が聞こえてきた。

あの異常な速さのお経が段々と近付いてくる。

俺は弾かれたようにドアから離れた。

もう気が狂いそうだった。

半狂乱になりながら
俺は部屋へダッシュした。

部屋に散乱した物を蹴り飛ばし、
押し入れを開け、そのなかに隠れた。

ドアの鍵は閉まっていたのを確認した。

ちゃんと閉まってるからヤツは入ってこない。

そう自分に言い聞かせた。

ドアの開く音が聞こえた。

ヤツの声が一直線にこちらに向かってくる。

なんでドアは鍵が掛かってるのに普通に入ってくる!?

なぜ俺が隠れた場所を最初から知ってたかのようにこちらに来る!?

目の前の押し入れのふすまが開いたところで
俺の記憶は途切れている。

起きたら朝だった。

夢かと思ったけど
目覚めたのが押入れの中だったから
いまだに夢じゃないと思っている。

アパートは流石に引っ越した。

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