友だちの鈴木(仮)の家に遊びに行ったときに、
酷い目にあった。

奴は大学受験に成功して、
その年から一人暮らしをしていた。

で、実家組の俺は
結構それが羨ましかったんだよね。

でもなんか、
新生活が始まってからしばらくたって久々に会ったときに、
奴にしきりに家に泊まりに来いと誘われた。

今までも奴が実家住まいのときなら何度かお邪魔したことがあるけど、
一人暮らしの部屋は初めてだったから、行きたいとは思ってたんだけど、
あまりにもしつこく誘うんでなんか不思議に思った。

それで

「なんかあるのかよ」

と俺が尋ねると、
鈴木はちょっと眉をしかめて

「来れば分かる。
ってかいいから来てくれ、頼む」

と言った。

俺の今までの経験的に、
こういうのに素直についていかないほうがいいっていうのは分かってる。

でもなんとなく、
久々に会ったっていうのもあったし、
何より俺は一人暮らしの部屋っていうのを見てみたかった。

で、後日泊まりに行くことにした。

その泊まった日のことなんだけど、
奴の部屋は案外普通だった。

汚かったけど、
まあ一人暮らしならこんなもんだろうし、
狭さも一人なら別に構わない感じ。

壁が薄いのか、
しきりに隣の人の水を流したりする生活音が聞こえてたけど、
そんなに気にならない程度。

で、行ったのも夕方だったし、
なんか馬鹿なことを話したりテレビ見たりしてたら
あっという間に夜中になった。

部屋でほぼ雑魚寝状態で寝てたんだけど、
そのとき鈴木がすごい不安そうな顔をしてドアのほうを見ていた。

時間は夜中の二時前で、
いわゆる何かが出る時間。

それであまりにそういう顔を崩さないもんだから、

「どうしたんだよ」

って言うと、

「そろそろだ」

と。

すごい嫌な予感がした。

泊まりに来いって言われた理由が分かった気がした。

で、時計の針が二時になった瞬間、
玄関のドアノブが回された。

もちろん鍵が閉まっているから開きはしない。

でもガチャガチャと
明らかになんか開けようとしてる感じ。

布団から身を起こして

「何あれ」

と聞くと、
鈴木は布団にもぐったまま

「俺が聞きたい。
でも引っ越してから毎日なんだ」

と言う。

「……もしかして、
あれのせいで俺を呼んだのかよ」

「う……ん、あれだけじゃないんだけどさ、
でもあれは実害はないから……」

「はあ?」

ガチャガチャは五分くらいで止んだ。

その後しばらく何も起きなかったし、
人間でも人外でも気味が悪かったけど、
俺はもう一度布団に潜り込んだ。

奴の言い方から、
絶対他にもなんか起きるんだろうなと思ったから
無理やり目をつぶって寝ようとした。

俺は怪談とかは好きだけど、
自分で体験するのは勘弁願いたいビビリだ。

でもそれでうとうとし始めたくらいのときに、
なんか左頬をくすぐられてる感じがした。

髪の毛だと思ったんだけど、
鈴木が寝ているのは俺の右隣。

で、じゃあ何が、
と思って薄目を開けると、
なんか、いた。

正直言うと、
それがどんなものだったかはよく覚えていない。

多分一瞬見てすぐ目を閉じたからだろうけど、
明らかに生きている女じゃなかったってことだけ。

あ、でも一応女でした、多分。

その後はどんなに頬をくすぐられようと
目をつぶって耐えた。

あと窓をバンバンたたくような音も聞こえてきたけど、
もう見るのも嫌だったから寝たふりを続けた。

だってこれ以上変なもん見たら本気でチビりそうだったし。

覆いかぶさるのは美人のお姉さんだけにしてくれ頼むから。

で、次の日の朝鈴木に怒ったら、

「あ、やっぱお前にも見えたんだ」

と言われた。

結局眠れないまま朝を迎えた俺は奴に切れながら

「どういうことだ」

みたいなことを喚いたんだけど、
奴がひたすら謝るもんだから、
だんだん怒りもさめてきた。

で、その後の会話。

「なんかさあ、引っ越したその日からずっとなんだよね。
でももし俺にだけ見えるものだったらどうしようとか考えちゃってさ。
誰かに相談しようにも、親はそういうの信じない派だし。
でもそっか、お前も体験したんだったら
俺限定じゃないってことだよな、よかった」

「お前それだけのために俺を呼んだわけ?」

「っつーか、これ以上一人であの部屋で寝るの、正直無理だった。
だからお前も同じ体験したら、
信じてもらえなくてもお前の名前出して
親説得して引越ししようと思ってた」

「だったら最初っから親呼べばいいじゃねーか!」

「いきなりそんなこと言っても
ストレスから来る精神病とか疑うぞあの親は!
その上親には見えないものとかだったらどうするよ!?
俺檻つきの病院には入りたくない、マジで!」

最初から怪奇が起きることを知ってて、
黙って泊めた鈴木には再び怒りがわいたものの、
そのあと朝昼兼用食をおごってもらったから許すことにした。

怖かったけど、
多分奴もかなり怖かったんだろうから。

俺に負けず劣らずのビビリだし。

その後すぐ、
鈴木は別のアパートに引っ越した。

「良かったな」

と言うと、
奴は大きく頷いた後にポツリと言った。

「あそこさ、壁薄かったじゃんか」

「うん」

「で、結構隣の人の生活音が聞こえてきただろ」

「そうだね」

「でさ、一応交流はなかったものの、
挨拶くらいはしてったほうがいいと思ったんだよ、
出るときに。
それで、安いお菓子持って挨拶しに行ったらさ……」

「行ったら?」

奴は気味が悪そうな顔で言った。

「俺の両隣、空き家だったんだよね……」

「……」

同じ階には他の人間が住んでる部屋もあったらしいけど、
でもそれであんなに生活音が聞こえるものなのか。

俺が聞いた生活音は、
足音だったり水音だったりで
確かに人間のものだったはずなんだけど。

とりあえず、
俺の一人暮らしへの憧れはなくなった。

実家サイコー。

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