もう十年以上前の話。

当時住んでいたマンションの近くに舎人公園があり、
毎晩十時過ぎに五キロほどジョキングした。

梅雨の合間、
三日ぶりくらいに走ると体がきつくなり、
途中のベンチで休むことにした。

しばらく夜風に当たっていると、
かすかに携帯電話の呼び出し音が聞こえてきた。

自分の携帯は置いてきた。

誰か近くにいるのかと当たりを伺うも、
人影はまったくない。

目の前には一台の自動販売機があり、
そこから音が漏れている感じがした。

機械のトラブルかと思い、
立ち上がって近づくと、
販売機の下から音が鳴った。

這いつくばって地面を覗くと、
携帯が転がっている。

しかしそこに手が入る隙間はなく、
取り出すことを諦めてその夜は帰った。

翌日、
太い針がねを持って現場に戻り、
ピッチを回収。

かなり古い機種で完全に電源が切れており、
どうして鳴ったのか、
一瞬背筋がぞっとした。

数日後、
秋葉原のジャンク屋で充電器を手に入れ、
ピッチの電源を復旧しようとしたが、
それすらできなかった。

自分でも何がしたいのか分からなくなって、
ピッチと充電器をゴミ箱に放り込んだ。

その夜、
真夜中に枕元の携帯が鳴った。

寝ぼけたまま電話に出ると、
か細い女性の声が聞こえてきた。

もしもしと話しかけるが、
声はこちらを無視して何か喋っている。

「怖いよ、怖いよ、怖い、怖い、怖い」

耳を凝らすと同じ言葉を繰り返している。

気味が悪くなって思わず電話を切ったが、
すっかり目が覚めてしまった。

若い女性が激しく怯えていた。

こちらの問いかけを無視して、
「怖い」感情だけを伝えて来た。

ただ事ではない。

携帯の着信履歴を思い切ってリダイアルして、
思わず悲鳴を漏らしてしまった。

ゴミ箱から呼び出し音が鳴った。

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