某不動産会社のFCに就職したんだけど、
仕事の中の一つに物件の写真を撮る、
っていうのがあるんだわ。

大家さんか管理会社さんに鍵貸してもらって、
部屋の中の写真を撮って、
それをサイトにアップするんだけどさ、
その日も俺はその仕事に回る事になったのよ。

で、物件に回る前には一通り物件の下調べをするのね。

家賃とか、間取りとか、構造体だとか。

で、その日回る物件の下調べしてたら、
1つ明らかにおかしい部屋があった。

3DKで駐車場費、共益費込み込みで1万円ジャスト。

いくら俺の住んでる方が田舎だっつっても、
明らかに安い。

それ見た瞬間に、

「あー、とうとうキたな」

と思った。

速攻で上司にその部屋について聞いてみた。

そしたら、あっさりと
その部屋であった出来事を教えてくれた。

簡単に説明すると、
そのアパートの1階に男が住んでて、
ある女と付き合ってた。

でも男は浮気をしてて、
それを知った女が自殺を考えた。

で、女はその男の住んでるアパートの屋上から飛び降りた。

恐らく、男の部屋の前(ベランダ側)に向かって。

でも、助走を間違ったのか何なのか分からないけど、
女は男の住んでいる部屋の、
その上の部屋の人のベランダに落ちちゃった。

落差は全然ないんだけど、
プールの飛び込み台の要領で頭から落ちたらしくって、
女は即死だったらしい。

で、当然そこの部屋の住人は出て行って、
彼氏も出て行った。

それからというもの、
その部屋に入った人は1カ月を待たずに出ていく。

で、家賃は下がりに下がって、
1万円になっちゃった、と。

上司の説明は、大体こんな感じだった。

で、俺はそのいわくつきの物件に、
あろうことか写真を撮りに行かないといけないことになったわけ。

スゲェ怖かったけど、
まだ研修生だった身としては、
断るわけにもいかない。

まぁ、パートのお姉さんに同行、って形だったから、
なんとか気を張ってその物件に向かった。

で、物件に到着。

想像してたようなモノとは違って、
案外普通のアパートだった。

2階建てで全8戸の、
田舎によくある造りの物件だった。

それでも多少怖かったけど、
俺は学生時代ツレと心霊スポットめぐりとかしてたから、
まぁ免疫はある方だと思ってた。

現に、1人暮らししてた時には
部屋でよく不思議な目にもあったし。

なんて自分を励ましながら、
問題の部屋の前までパートの姉ちゃんと行く。

鍵を開けて扉を開いたとき、
とんでもない違和感があったのを
今でも体で覚えてる。

その日はまさに茹だるような暑さだったのに、
日の差す密閉された部屋が、
やけにひんやりとしていた。

ただごとじゃないな、って、
霊感とかないけどハッキリ思った。

で、いざ中に入って写真を撮るぞ!って時に、
パートの姉ちゃんがポツりと言った。

パートの姉ちゃん(以下パ姉)「○○君(俺の名前)、頑張ってね」

はぁ?と思った。

まぁ、簡単に言えば、
1人で撮ってきてね私はここで待ってるよ。
って事だわな。

ちっさくガッツポーズで俺を励ます
年上ポニテのお姉さまの姿を見て、
カッコつけたくなった俺は

俺「じゃあ、行ってきます!」

と単身で部屋の中へとはいって行った。

で、デジカメで写真を撮るわけだけど、
3DKだから撮る写真の量が多いんだ。

必然、部屋の中にとどまる時間も増える。

部屋の写真はまだ良かったんだけど、
風呂、トイレの写真を撮るのには勇気が必要だった。

電気がつかない状態で、
暗いトイレと風呂の写真を
カメラのフラッシュ頼りに撮るんだ。

超怖い。

でもまぁ、なんとか全部を撮り終えた俺は、
パートの姉ちゃんに気づかれない程度の速足で部屋を出た。

俺「撮ってきましたよ!」

俺はデジカメを姉ちゃんに押し付けると、
すぐに扉を閉めて壁にもたれかかった。

想像以上に疲れてた。

外に出た瞬間に、
暑さでどっと汗が噴き出した。

俺は研修生という身分上、
撮ってきた写真を
このパートの姉ちゃんに確認してもらわないといけない。

で、もしもダメだったら撮り直しになっちまう。

だから、全身全霊で完璧の写真を撮って帰った。

後は姉ちゃんの「おk」の言葉をもらうだけ。

俺は半ば祈るようにして
姉ちゃんの口が開くのを待った。

パ姉「うん、問題ないね」

カメラから視線を俺に移して、
姉ちゃんがそう言った。

俺は思わず
「イヤッホォォオオオウ!」
と叫びそうになった。

俺「じゃあとっとと次行きましょう」

パ姉「あ、でも待って。動画撮れてないね」

言われて俺は気づいた。

とっとと終わらせたい、と急いていたせいで、
写真の他に室内の動画を撮る事をうっかり忘れてしまっていた。

俺は滅入る気をなんとか持ち直して、
再びデジカメ片手に部屋の中へと戻って行った。

で、俺は部屋の真ん中で
デジカメの機能を動画に変えて
再び撮影に戻った。

教えてもらった通り、
顔からデジカメの画面を話して、
脇をしめて体全体で回るように撮る。

動画は基本10秒まで。

とっとと帰りたかったけど、
この10秒はどうにもならない。

とんでもなく10秒が長く感じた。

長い10秒を終えて、
俺は今度は姉ちゃんの目とか気にせず
ダッシュで部屋を出て、
すぐに姉ちゃんにデジカメを渡した。

で、再び姉ちゃんのチェックが入る。

で、動画を再生した時、
動画の音声にノイズが入っている事にすぐ気がついた。

『ズ・・・ズーズズ・・・ズッ・・・ズーズー』

って感じ。

今までにもけっこう写真は撮ってきたけど、
こんな事は初めてで、俺も姉ちゃんもビビってた。

でもまぁ、なんとか許容範囲だね、
って事でデジカメの電源切って車に戻ろうとしたときに、

パ姉「ぅわっ!」

姉ちゃんが突然大きな声を出した。

俺「なんですか!?」

パ姉「…ねぇ○○君。
君動画撮るときどうやって撮ってる?」

俺「はぃ?」

何を言ってるんだ、と思ったけど、
俺は動画を撮っている様を身振り手振りで説明した。

パ姉「………じゃあ、これおかしいよね」

そういって、
姉ちゃんは動画を最初に戻して再生した。

そして、「ここ」と画面の右端を指差した。

俺も、指摘されてすぐに気がついた。

画面の右端。

画面を上から下に突き抜ける感じで、
長い髪の毛の束が映ってた。

しかも、俺が画面を動かすと、
それに合わせて揺れながらついてきてる。

ずっと、画面の右端に髪の毛の束があった。

俺「うわ」

思わずデジカメを放り出しそうになったけど必死でこらえて、
デジカメを姉ちゃんに返した。

俺「どうするんですかこれ?消しましょうよ」

パ姉「いや、一応社長に聞いてみないと」

他の物件の写真を撮るのを後回しにして、
社長に意見を聞きに会社に戻った。

で、社長との協議の結果。

動画、写真は削除。

その物件との仲介も切ることになった。

で、その動画を消す前に
会社で少し再生して見てたんだよ。

やっぱなんかの見間違いじゃないかなーって。

でも、やっぱりどう見ても髪の毛。

俺の髪はそんな長くないし、
ましてやデジカメの画面を見るように撮ってたから、
俺の髪の毛が映るわけもない。

なんだろう、これ。って、少し見てて、
「あれ?」と思った。

もう一人のパートのお姉ちゃんを見る。

長い髪の姉ちゃん。

姉ちゃんと動画を見比べて、
違和感に気付いた。

なんでこの動画、
髪の毛しか映ってないんだ?

普通、髪の毛が映るんなら顔なり体なり写るだろ。

どんなアングルだとしても
肩とか、横顔とか。

でも、何回見直しても写ってるのは髪の毛だけ。

で、そこで俺はひらめいた。

というか、思い出した。

この部屋のベランダで死んだ女は、
屋上からベランダへ、
プールの飛び込み台の要領で落下した。

つまり、頭が下。

俺の全身に鳥肌が立った。

つまり、逆さなんだ。

天井から、頭を下にして“そこ”にいたんだ。

逆さのまま、俺の目の前に。

俺を覗き込むように。

気づいた瞬間、動画をすぐに消した。

あれ以来、物件を回る時はポケットに塩入れて行く。

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