大学の頃です。

夏休みを利用して、
友人のC、Kと川が綺麗な事で有名な田舎へ遊びに行きました。

Cとは地元が同じであること、
CK僕共に犬好きなことが共通点で仲良くなり、
僕とKは実家で飼っている犬の写真を見せたりしていました。

Cも犬を飼っていましたが、
去年尖った物を噛んでしまい
その傷がもとで死んでしまったと聞きました。

一日朝から遊び回り、
くたくたになった夜。

酒とジュース、食べ物を買い込んだ僕らは、
僕の祖父母が使っていた
今は誰も住んでいない家に泊まりました。

お風呂は近くの銭湯で済ませて、
居間に食べ物を広げ、
酒とジュースを並べます。

Cは同級生ですが1つ年上だったので、
Cはお酒を飲み、僕とKはジュースを飲んで
ぎゃーぎゃーと騒ぎます。

周りの家とも数mは離れているので
騒音の心配もありません。

宴もたけなわ、となってきた深夜。

家の近くで、
ずざざ、ざざざという音が聞こえ始めました。

何かを引き摺っているような、
這っているような音です。

僕等は顔を見合わせ、
耳を澄ませました。

近くに住む誰かの足音かと思いましたが、
音はこの家の敷地の中から聞こえてきます。

僕は居間から廊下を挟んだ和室に移動し、
カーテンを捲って網戸越しにそっと外を覗きました。

巨大なヒルのようなものが、
家の周りを這いずっていました。

あまりのことに
僕はそのポーズのまま固まり続けていましたが、

「おい何がいた?」

と居間から身を乗り出したKに声をかけられ
我にかえりました。

「なんか毛の生えたでかいヒルがいる」

と告げると、Kは

「はぁ?」

と言い、
Cは目を見開き、
口を半開きにしたまま
ひゅっと息をのみました。

Cはみるみる血の気を失いながら

「なんで?どうして?」

とつぶやき、
耳を塞いで体を丸めました。

Kがおいどうしたと声をかけますが、
何も答えず蒼褪めてがたがたと震えています。

僕は納戸からバケツを取り出し、
台所に置いてあったポットも掴んで
リビングに戻りました。

ずざざ、ずざざ、と
巨大ヒルが外を這いずっている音が聞こえてきます。

Cが何をする気だ、
と真っ白な顔のまま尋ねてきたので、
山登りが趣味だった祖父が

「ヒルには熱湯が効く」

と言っていたことを伝えました。

その瞬間Cはうめき声を上げて

「やめろあれは##$@で」

と言いました。

ヒルの種類でしょうか。

よく聞き取れなかったので

「え?何て?」

と聞き返すと、
同じように

「##$@だ!」

と答えました。

ムニャムニャした名前でよくわからないし、
そんなマイナーな種類のヒルへの対処までカバーできません。

そうこうしている間にも
ずざざ、と言う音は和室の網戸の下まで迫ってきています。

僕はバケツにポットのお湯をぶちまけ、
景気付けに一味唐辛子の瓶の中身も投入して
立ち上がりました。

そして何事か這いずって喚いているCと
それを抑えるKを背に、
バケツを持って網戸の前へと向かいます。

後から聞いた話ではCは腰を抜かしていたそうで、
よほどヒルが嫌いなようでした。

僕もあまり好きではないし、
可哀想ですが個人の邸宅の敷地内に入って来た害虫は
追い払わねばなりません。

ずざざざ、と
巨大ヒルが砂利を巻き込んで進んでくる音が間近で聞こえます。

夜の暗闇ではっきりは見えませんが、
丁度網戸の辺りを通過するところのようです。

僕は網戸をスパーンと開け放ちました。

縁台の真下にいたそれは、
抱き枕のような大きさで、真っ黒で、毛むくじゃらで、
胴体から伸びた針金のようなもの先に
ビー玉のような目がぶら下がっていました。

なめくじ。

僕は持っていたバケツを取り落とし、
その熱湯がもろに巨大なめくじにかかりました。

「ミギョオオオオオオオオオオオオオオオオ」

となめくじは鳴きました。

なめくじだけは駄目です。

子供の頃、
サラダの葉っぱの裏にいたのに気付かず
噛んでしまった時から本当に駄目でした。

なめくじはしゅわしゅわと湯気を出しながら
悶え転がっています。

僕は踵を返してキッチンへ走り、
徳用パックの塩を引っ掴んで戻ってくると、
その中身を滝のようになめくじにまぶしました。

「みいいいいいいいいいいいい」

と声を上げるなめくじは可哀想な気もしましたが、
止めることはできませんでした。

やがてなめくじは動かなくなりました。

退治できたようです。

可哀想な事をしたと思いながらも
僕はほっと胸を撫で下ろしました。

暗闇で輪郭がぼやけていますが、
反撃の機会を窺っているとか
また動き出しそうな感じではありません。

しかし頭が冷静になってくるにつれ、
なめくじってそもそも鳴くのかという疑問と、
何よりその大きさに恐怖を感じてきました。

僕は意見を仰ぎに
KとCの待つリビングへと戻りました。

Cにもなめくじの叫び声は聞こえたようで、
気持ち悪さにか涙を流し、
白いを通り越して紙のようになってしまった顔色で、

「##$@は…?」

と尋ねました。

僕が

「熱湯と塩をかけたら死んだ、
多分なめくじ」

と答えると、
まるで時間が止まったかのように口を開けて
凍りつきました。

証拠になめくじの死体をみせようと
僕が網戸の前までKとCを引っ張っていくと、
今度は僕が凍りつく番でした。

なめくじの姿が消えていました。

逃げられたのか、
と家の周りを捜してはみましたが、
影も形もありませんでした。

熱湯と塩をかけられて、
急激に縮小して消えてしまったのかもしれません。

それにしても不思議だし、
視界が悪かったとはいえ
あの大きさは今思えば本当に異様でした。

以降数年経ちますが、
CもKも僕も無事に生きています。

一体なんだったのか、
もしお分かりになる方がいれば教えて頂きたいです。

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