大学に入ってからできた俺の彼女は小さい頃、
所謂見える人だった。

彼女曰く、

「あの頃は小さい変な生き物とか、
他の人には見えないチエちゃんってお友だちがいて、
たまにとても怖いモノが見えることもあった」

らしい。

しかし、その力は、
小学校に上がる頃には消えてしまっていた。

だから、長い間、
小さい頃に見ていたモノ達は
子供特有の想像力の産物だと思っていたそうだ。

だが、俺と付き合い初めの頃、
力が消えていないことに気付いた。

きっかけは俺の部屋に泊まりに来た時、
俺の部屋のTVを消した瞬間、
TVの黒い画面に映った俺の後ろに
「長い髪の女」が見えたこと。

「長い髪の女」を確認した瞬間、
何かいる、
そう思い慌ててTV画面から目を放し、
俺の方を確認したが何もいなかったらしい。

だが、TV画面を確認すると、
やはり何かいる。

久しく心霊的なモノを見ていなかった彼女は
背筋を凍らせながらも、
霊的なモノが見えると言い出したら
俺に痛い子と思われると考え、
何も言えなかったらしい。

しかし、時が経つにつれ
「長い髪の女」の存在感は増していった。

最初はTV画面や鏡等に映り込んでいるのを視認できる程度だったのが、
段々視界の端で視認できるようになり、
最終的には俺の後ろにたっているのを
直接視認できるようになってしまったようだ。

そうなると、
彼女は俺に会うことが段々苦痛になり、
俺も彼女の様子がおかしいことに気が付き、

「浮気してるんじゃないか」

と検討違いなことを疑うようになった。

俺達の関係は
段々ギクシャクするようになっていった。

その頃から、
今度は俺に異変が現れた。

彼女が登場する夢をよく見るようになった。

しかも彼女が登場するのは悪夢のみ。

例えばゾンビに襲われる夢では、
彼女を庇いながら逃げるうちに彼女が死ぬ。

戦火の中彼女を探しつつ逃げ惑う夢では、
彼女が俺の目の前で惨たらしく殺されてしまう。

そんな夢ばかり見るせいで寝覚めが悪い。

しかも俺が夢を見るようになったのと同時期から
彼女が段々やつれて見え、
なんと言うか存在感が希薄になっていった。

どう表現したら良いかは分からないが、
生命力的な物を削られている感じだった。

俺も段々何かがおかしいと感じるようになってきていた。

元来オカルト好きな俺は、
何か霊的なモノの関与を疑うようになった。

そして、その疑いを確信に変える夢を見た。

その夢はいつの通りの悪夢だった。

目の前で惨たらしく死ぬ彼女を助けることができない夢。

いつもならそこで目覚めるのだが、
その夢は違った。

惨たらしい彼女の死体を呆然と見つめていると、
不意に白く細い腕が現れ、
倒れ伏す彼女の長い髪を掴んだ。

驚いた俺は、
視線をその腕の持ち主に移した。

腕の主は長い髪の毛で顔の隠れた女だった。

女は彼女の髪を掴んだまま俺の方に近づいてくる。

女に引きずられる彼女から流れ出る血液が、
地面に尾を引いていた。

女は俺の目の前に来ると、
何かぶつぶつと呟き始めた。

最初は聞き取れない程小さな声だったが、
やがて何を言っているのか
はっきりと聞き取れるようになった。

女の呟きの意味を理解した途端、
俺の背筋は凍った。

「ねえ、この女と私どっちが良い?
これはぐちゃぐちゃだよ?ぐちゃぐちゃだよ?
駄目だよね、ぐちゃぐちゃじゃあ汚いよね。
汚いのはいらないでしょ、いらないでしょ?
私はきれいだよ、新しいよ、
ほら、ほら、ねえ、ねえ!!」

女は段々と語気を荒げながら、
こんなことを言い続けた。

時折、もう動かない彼女の頭を蹴ったり、
踏み潰したりした。

その度に

「あー、また汚くなった」

と嬉しそうな声で呟いていた。

これだけでも相当恐ろしいが、
俺がそれ以上に恐怖を感じたのは、
女の声が彼女の声にそっくりだったことだ。

彼女の声で、彼女を罵る女。

俺の精神はすぐに限界を迎え、
無意識のうちに

「もうやめてくれ」

と呟いていた。

おれの呟きを聞いた女の雰囲気は、
がらりと変わった。

女は彼女の髪を掴んだままの腕をぐいっと引き上げ、
何度も踏みつけられたせいで
最早原型を留めていない彼女の顔を俺に見せつけた。

俺は身動ぎもできず、
ただ彼女の顔を見つめるしかなかった。

暫くそのまま膠着状態だったが、
やがて女が口を開いた。

「この女、汚い。私なら」

そう言いながら、女は髪を掻き上げ、
今まで隠れていたその顔を見せた。

今度こそ俺の精神は限界を迎え、
絶叫した。

女の顔は、彼女そっくりだった。

彼女の顔をした女は、
絶叫する俺の頬を手のひらで包み、
何か言おうと口を開いた。

そこでスマホの着信音が鳴り、
目が覚めた。

俺はびっしょりと汗をかいていた。

スマホの画面を見ると、
発信者は彼女だった。

先程の夢のこともあり躊躇したが、
電話に出た。

彼女は俺が電話に出ると、

「長い髪の女について話したいことがある。
今すぐ部屋を出て。
アパートの前に、
その女について説明できる人と待ってるから」

と言い、
すぐに電話を切った。

俺はすぐに外に出て彼女と合流した。

その時の彼女は昨日までと違い、
やつれてもいないし、
しっかりと存在感があった。

その事を不思議に思いながらも
彼女に腕を引っ張られ、
アパートの前に停まっている車に乗った。

車には彼女に少しだけ似た女性が待っていた。

彼女は、女性は自分の叔母で
霊的なモノが見える人であること、
彼女も今まで無くなっていた能力が戻ってきたのか
「髪の長い女」が俺の側にいるのが見えることを、
俺に説明した。

ここからは殆ど彼女の叔母さんの話のまとめになる。

・彼女の「見える力」は小さい頃に無くなった訳ではない。

小さい頃に見えていたモノのいくつかが
彼女の守護霊的存在になったお陰で、
その守護霊的なモノより弱い力の霊は近寄れなくなった。

そのため彼女の近くに霊的存在が殆どいなくなり、
結果的に彼女は霊的なモノを見る機会をなくしていた。

「長い髪の女」が見えたのは、
彼女に「長い髪の女」が敵意を抱いていたから。

これについては次の項目で詳しく書く。

・今回の「髪の長い女」は
元々俺がどこかで拾ってきた弱い霊。

だが俺と彼女が付き合い初めたことで、
霊が彼女の守護霊的なモノに追い払われそうになった。

そのため彼女に敵意を抱き、悪霊化。

俺に影響を与えること(悪夢、彼女がやつれて見える幻覚)で、
彼女を追い払おうとしていた。

・彼女が叔母さんに相談したきっかけは、
一度彼女の夢に「髪の長い女」がやって来たから。

ただし、その時は
幼い頃彼女の見えないお友達であったチエちゃんが追っ払った。

チエちゃんは元々山にいた神様的なモノ。

開発で居場所を無くし消えそうだったが、
よく山に遊びに来ていた彼女に付いていくことでその存在を保った。

現在は彼女の守護霊的なモノの中でも
強い部類の存在になっている。

・悪夢に登場した「髪の長い女」が彼女の姿だった理由は、
俺の側に半永久的に存在しようと画策した結果らしい。

夢で殺された彼女を俺が拒否
(汚いからいらないでしょ?の質問に肯定的な反応を示した場合)し、
生きている彼女の姿をした女を受け入れていたら、
後戻りできないレベルで
俺は女と融合することになっていたらしい。

ちなみに彼女からの電話がなければ、
俺は完全に「髪の長い女」に取り込まれ
最悪二度と目覚めなかったかもしれないと言われた。

また、彼女と付き合っている限り
あの女は俺に近づけないが、
彼女との繋がりが切れたらどうなるかわからないとも。

今回の話はここまでだ。

彼女とはもう3年の付き合いになるが、
今回のこと以外にも洒落にならない体験はいくつかあり、
何度か彼女の叔母さんのお世話にもなっている。

他のエピソードについても、
また書きに来させてもらおうと思う。

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