中学の頃、こっくりさんの亜流で御雫様というのが流行っていた。

10円玉の代わりにペンを数人で軽く持ち、自動筆記を行わせる、
と言った感じの儀式だった。

その異変までのお楽しみ具合は、
まあ他の話と同じだから省くとして、俺も結構参加していた。

女の子と楽しく過ごせたから。

俺自身はこの手の類のものは信じていなかった。

でも、女子の反応が面白いから、真剣を装って、
あるいはオカルトトークで不安を煽ったりしていた。

俺は女子と楽しく過ごせればよかったのだ。

ペンが何で動くかはどうでもよかった。

どうでもいいと思っていたのが気に食わなかったのか。

ある日、異変は起きた。

突然、ペンが異様に動き出し、
今まで無かった長文を筆記し始めたのだ。

詳しい内容は覚えていないが、まさに罵詈雑言、
思いつく限りのろくでもない言葉を書き連ねていった。

中学の女子のボキャブラリーで書ける内容じゃないし、
いたずらで動かせる速さではない。

俺が止めようとしても止められないし、
他の娘の指は、離れない様なのだ。

女子が悲鳴を上げ、教室内はパニックになった。

尋常でないことが起こっている!

それは解っていたが、俺は意外と冷静だった。相手ペンだし。

どうにでもなると思いつつ、乱文の内容を目で追っていた。

すると・・・

俺の名前が出てきた。

さすがにギョッとした。

ペンは俺に対する暴言を書き殴っていくのだ。

半分動揺し、半分むかつきながら、
やはり犯人はこの中(ペンを持ってる4人)にいるのではないかと疑ったが、
どうもそうではないようだ。

全員顔が必死だった。

ペンは今だに俺を罵り続けている。

そして遂にはお前は死ぬ、お前を殺す、
といった文を書き始めた。

プツン

温厚な俺も軽く切れた。

「殺すだと?ふざけるなよ、てめぇ!」

空いてる手で消しゴムを掴み、ペンに殴りつける。

「シャープペンには消しゴムだオラァ!」

反射的にとった行動で別に意味は無かったのだが、
ペンは脆くも砕け散った。

バシャッ・・・という水音と共に。

俺たちを押さえていた妙な力は消え、
やっと怪異から解放された。

後には砕けたシャープペンと、小さな水溜りが残っていた。

俺の勝ちだという「してやったり」感があった。

女子は茫然自失状態、中には泣き出す子もいた。

祟りを怖がる子もいたから言ってやった。

「奴の呪いは全部俺に向かうだろうから心配するな。」

「貴方は大丈夫なの?名前出てたわよ?」

「狸や狐に負けるかよ。返り討ちにしてやるぜ!」

思い込みだけで参ってしまう人もいる。

俺の目の前でそんな奴は出したくない。

不安を払拭させるために、当たり前のように言い切った。

しかし、内心は震えていたのだ。

ペンが動くのはどうでもいい。

しかし、あの水は一体何なんだ?

砕けたシャープペンから、大量の水が溢れ出した。

大量といってもたかが知れてるが、ペンの体積よりも多い水量だった。

呼び出したものが御雫様・・・しずく?みず?

狐狗狸とは別物のなにかなのだろうか。

敵を砕いた実感があったが、
得体の知れないものが相手で不安があった。

死の宣告も不気味だったので、
その消しゴムをお守り代わりに持つことにした。


後日談があるかといえば何も無い。

パニックは教室内限定で、この件が教師にばれる事も無かった。

おかしくなる奴も出なかったし、
俺自身に妙なことが起こることも無かった。

御雫様が二度と行われなくなっただけで、
以前と変わらぬ学校生活に戻った。

全員無事に卒業し、5年経った今も皆健在だ。

あの消しゴムは、卒業後、感謝をしつつしっかりと使い切った。

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