ガキの頃の話になるが。

父親が渓流釣り好きで俺もよく連れて行かれ、
釣り場に着くと父親は

「余り遠くに行くなよ」

と言うと俺を放置。

そのおかげか、
何時しか自分の庭感覚で山の中を歩ける様になった。

夏の暑い日に、
子供用竿を片手に川岸を歩いていたら、
同年代の女の子に会った。

その女の子も一人で、
この子も親に放置されたな思って声かけると、
近くに住んでて川を見に来たそうだ。

何時しか仲良くなって、
俺の持っていたコアラマーチやラムネを飲み食いしながら話してたら、
女の子が帰らなければと言い出したので、

「また会おう」

と言って別れた。

俺も親父の所に帰り、
女の子の話しするが、
デカ岩魚を逃がした親父は、
俺の話しなんか聞いちゃいない。

それから釣りに行く度に女の子に会って遊んだんだが、
ある日の夕暮れ、

「俺そろそろ帰るわ」

と言ったら、
女の子が

「このままここにずっと居ない?」

って言い出した。

寂しそうにしてる女の子には悪かったけど、
当時小学生の俺に女心なんかわかる訳も無く、

「ごめん。ここじゃTVの電波悪くてZガンダム見れないでしょ。
遊びに来るのはいいけで住むのはちょっと」

って言ったら、
女の子は「そう」ってだけ言うと、
自分の家がある方向に歩いて行った。

流石に悪い事言ったかなと思った俺は、

「今度来る時は女の子用のお菓子とか買って来るね」

って言ったんだが、
返事は無かった。

そんで後日、
また親父と釣りに行く事になり、
前日に母親とスーパーで明日のお菓子を買いに行ったら、

「あんたなんでそんなの買うの?何時ものと違うんじゃない?」

なんて言われる。

まぁ、何時もベビスタやビックリマンやらそれ系しか買わない俺が、
女の子用の玩具入ったお菓子買うの不思議に思ったんだろな。

それで、

「釣り場で会ってる女の子にあげるんだ」

と言うと、

「泣かすなよ」

なんて母親にからかわれる。

んで帰宅して、
母親から話を聞いたらしい婆ちゃんが、

「これも持って行け」

なんて、
柑橘類を干して砂糖まぶしたのを渡して来る。

「年寄り臭いから嫌だ」

と言う俺だが、婆ちゃんは

「途中で捨てるなよ」

と言いながら無理矢理手渡す。

それから

「どこの女の子だ?」

なんて、
年寄り特有の勘繰りが始まり、
面倒だが言わないと拗ねるので、
女の子の事を俺が話していると、
いつしか婆ちゃんが黙り込んでいる。

「それ間違いねぇか?」

なんて婆ちゃんに聞かれた俺が頷くと、

「あの近辺には、今は人住んでねぇはずだぞ。
わだしらわらしの頃あたりに、人引っ越したはずだ」

なんて言い出した。

「でも間違い無く女の子に会った」

と俺が言うと、
婆ちゃんが

「悪いのじゃねぇな。んでもついで行くなよ」

と念を押される。

それで翌日、何時もの場所に着くと、
俺は親父と別行動し、
何時も河原に行ったんだが、
女の子は何時まで待っても現れない。

その場で釣りしながら
お昼近くまで待っても全然現れない。

どうかしたんだろうか思った俺は、
女の子が家に帰る道の方に行ってみた。

前にこの様に行くと家があるって女の子から聞いていたので、
目印になる『馬頭観音』って掘られた石まで迷わずに行けた。

そして、スノボーのパイプみたいに凹みになっている道を出ると、
視界が開けたのはいいが、
そこらにあるのを見て俺は言葉を失った。

時代劇とか日本昔話にでも出て来る様な古い家、
それも皆かなり朽ちている。

一目見ただけで人が住んでる訳無いと思いつつも、
俺は足を進めたが、どの家にも誰も居ない。

結局、女の子を探すの諦めた俺は、
帰宅してから婆ちゃんに今日の事を話すと、

「狐につままれたんだ」

ただそれだけ言われた。

それから翌年、
またあの場所に行ってみようとしたんだが、
何故か目印の石さえ見当たら無い。

探し回った疲労から河原で休憩していると、
人の気配がしたのでそちらを向くと、
あの女の子が居た。

その顔はとても寂しそうに、

「このままだて連れて行ってしまうから、
もう来ては駄目」

とだけ言うと、
目の前から消えてしまった。

その時は恐怖とかより、
俺が来ると女の子が嫌がる、
そっちの方のショックが大きく、
その日は釣りをする気にもなれず、
親父の車で寝ていた。

それから数年経過してから、
女の子は俺を気遣ってくれたんだなって気づいたよ。

それから20年近く経過するが、
今でもあの時の事は覚えている。

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