これは、あの日以来誰にも話していない話。

私は19歳の大学生、
彼は19歳のフリーターでした。

わたしたちは付き合って2年半が経ち、
私の方はもう冷めていたのですが、
情もあったし、つきあっていたんです。

私は当時、彼に隠れて
ちょっと危ないバイトをしていました。

稼いだお金はくだらないことに使っていました。

今思うと本当にひどいことしてました。

それで、いつものようにバイト先に行って、
待機していたんです。

夕方くらいになって、携帯が鳴りました。

表示をみると彼の自宅からになっています。

「はい」

と低いトーンで電話にでると、
すすり泣く声がきこえてきました。

それは彼の母親からでした。

「こんなこと、伝えたくないんだけど、
H(彼の名前)が死んだの」

私はちょうどそのとき
トイレの鏡の前で電話をとったのですが、
鏡にうつる自分の顔がみるみるうちに真っ青、
というより、真っ白になっていくのを見ました。

私はなぜかピンときました。

「自殺ですか」

私が震える声で尋ねると、

「うん」

とおばさんは言いました。

バイト先から彼の自宅までは近くて、
私はよたよたと歩いて、
妙に細い月をみながら、
これはなんだと思いました。

彼の自宅に着くと、
もう玄関にはたくさんの靴があって、
彼は白装束を着させられているところでした。

その日の夜、一度家に帰った私は、
彼とのメール履歴をさかのぼって、
自分が彼にしてきた酷い仕打ちを確認しようと思いました。

携帯を開き、受信ボックスを開き、
「H」と書かれたフォルダを開きました。

”メールがありません”

わたしたちは、
一日に最低3往復はメールしていました。

フォルダは、おばさんからの電話が来るまでは
彼からのメールでいっぱいだったのです。

それに、当時の私の携帯は、
どこかのフォルダだけ選択して
メールを消すということはできませんでした。

それなのに、メールは1件もなかった。

今こうして書いていても背筋が寒くなります。

彼が1件1件消していったのでしょうか。

私の隠れた酷い行いをみて、
消していってしまったのではいないかと思っています。

それからもうひとつ。

お通夜を葬祭会館で行うことになって、
家の人と一緒にでかける直前、おばさん(彼の母)が
携帯に彼からの着信があったとみせてきました。

それは、彼が亡くなってから2時間後の着信でした。

誰かのいたずらだろうと彼の父親が言ったのですが、
彼が亡くなってから、
彼の遺品はすべて1つの鍵のかかった箱の中にあったのです。

おばさんへの着信は、
同じ時間に3回もあったそうです。

私に宛てた遺書には、私をすごく愛していたことと、
彼にも隠しごとがあったということが書いてありました。

多額の借金とたくさんの嘘。

彼は亡くなって、
自分だけが嘘をついてきたのではないことを知って
どう思ったでしょうか。

もう、何年も前のおはなしです。

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