山を歩いていた。

登山に行く趣味なんて無いのだが
ある日突然山に登りたくなって
夜中にタクシーを呼んで地方の山奥まで行った。

何で行くことにしたのか?

そのキッカケも思い出せない。

運転手は

「えー?大丈夫ですか?
こんな真っ暗な山に何の用ですか?」

と訝しんだが
チップをたらふく弾み
そのまま帰らせた。

そして懐中電灯一つで真夜中の山に入った。

何も感じなかった、
恐怖もなんも。

むしろこれから同窓会で
懐かしい級友に会いに行く様な
楽しみな様な不安な様なのが混じった気分。

それ処か懐中電灯の電池が勿体無いので消して
真っ暗闇の中を文字通り闇雲に歩いた。

真っ暗闇の人工林をしばらく歩いていると
雲に隠れていた満月が出てきたのか
背後の闇が照らされる。

するとその方角で何かの気配がしたので振り向くと
丁度牛くらいの大きさの蟹か蜘蛛みたいに
長い手足がいっぱいある何かが7m位先に見えた。

どんどん近寄ってくるが
不思議だがそれでもまだ恐怖は感じない。

逃げずに棒立ちしていると
化物はどんどん近付いてくる。

3m位に近付いた時に

「う"え"ぇえぇおぇぅぅぅ」

という不気味な声と共に
ベロの長い人間の顔が付いた頭が見えた。

頭の周りには
兎の首とか犬の首や角や口みたいなのも
滅茶苦茶にくっ付いていた。

ここで少し違和感を感じた俺は走った。

恐怖は相変わらず感じない。

そこら辺のホラーゲームの方がまだ怖いだろう。

とりあえず来た国道の方へと逃げる事にしたが
目印なんて付けてないし
道なんて分からないから
滅茶苦茶に走って逃げる。

化物は

「ぇお"ぉい"ぃぃぃ」

と耳がつんざかれる様な大声で叫びながら
しつこく追ってくる。

数分も走り続けていると
流石に疲れて来て諦めかけたが、
その時にまた月明かりが出て来て
遠くに廃寺らしき家屋が見えた。

一か八か賭けてみる事にした。

そこから全力疾走して駆け込むと
やはりそこは戸に鍵も掛かって無い
荒れ果てた廃寺らしかった。

だが不幸中の幸いか
一つしか無い戸の閂は無事だった。

急いで戸を閉めて閂を噛ませる。

その二秒後戸が
砕けんばかりのドスン!という大きな音と衝撃が突っ込んできた。

その日はそのまま寺で座禅を組みながら
念仏を唱えながら徹夜で閂を見張った。

朝方になって居眠りしてしまい
美しい女が寺の外で踊っている夢を見た。

目覚めたのは昼過ぎだった。

夜は気付かなかったが
廃寺の床には古そうな将棋の駒がバラ撒かれていた。

駒は全て牛将という字の書かれた駒ばかりだった。

山を何時間歩いたか分からないが
国道に辿り着いた時は夜中の3時だった。

怖い筈の出来事なのに何故か怖くない。

もう山は行きたくない。

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