幼い頃、
父に玉虫の厨子の話を聞いて、
友達と途中まで作ったことがあった。

そしてそれを長い間さっぱり忘れていた。

大人になって何年目かの夏に、
嫌な夢を何度も見て思い出した。

玉虫の羽が空からたくさん降ってきて
キラキラしてた。

それが綺麗でずっと見ていると
だんだん量が増えてきて
俺はその中に埋まっていく夢。

息をすると
口の中から玉虫の羽が出てきて、
そこでいつも目が覚める。

何度も見ているうちに、
幼い頃を思い出した。

子供とは恐ろしいもので、
俺たちは数十匹もの玉虫を捕まえて、
固いキラキラした羽をむしりとって集めていた。

あと何匹で厨子が完成するとか嬉々として騒いだ。

でも羽を張り付ける箱は、
玉虫という小さな虫の羽の大きさに比べて
あまりにも大きかった。

だから完成する前に季節が過ぎて
玉虫はいなくなってしまった。

俺の記憶はそこまでだった。

その友達に電話掛けてこのことを話した。

玉虫の供養の話を持ちかけるために。

でもそいつはゲラゲラ笑って、
馬鹿なことを言うなと言っていた。

その箱はそいつが持ってるらしい。

そしてそれは完成していると。

話を聞くと、
俺がいきなり玉虫の呪いだとか、
何だかんだと騒いだから一旦中断したんだとか。

でもそいつは完成した箱がどうしても見たくて
秘かに続行して何度かの夏を使って完成させたらしい。

俺は玉虫の呪いだとか騒いだことは全く覚えていなくて、
ただ季節が過ぎて
玉虫がいなくなってしまったというように記憶していた。

後日そいつと会う約束をした。

その日の夜は、
例の箱を開けようとする夢を見た。

薄暗い押し入れの角に
埃を被った段ボールの箱を見つけて開くと、
半紙に包まれた小さな箱が出てきた。

それには綺麗な玉虫の羽がびっしりくっ付けられていて、
俺は思わず感動する。

そして蓋を開けようとすると、
ちゃぷんと水音がして、
そのときに目が覚めた。

友達と会う日、
俺は少し嫌な予感というか、
何か行きたくなかった。

でも約束してたし行った。

その途中の電車でまた夢を見た。

玉虫の羽が剥げて
ボロボロになった箱がひとりでに開く夢だ。

中身は思い出せない。

友達の家について、
入ると少し生臭い匂いがした。

友達は普通だったから
気のせいかもしれないけど。

案の定、
箱は押し入れにしまってあるとそいつは言うので、
一緒に探した。

俺は夢のこともあって、
押し入れの角をすべて探したが、
そこにはなく、かわりに天袋の角に、
夢と同じ段ボールの箱があったので取り出してみた。

友達は嬉々として
戸惑いもなく中身を取り出した。

俺は少しこいつが怖くなってきた。

玉虫の羽がびっしりくっ付けられた箱は、
夜に夢で見たものより劣化していたようだったが、
電車の中で見た夢よりも綺麗だった。

俺はつい感動してしまった。

「中に何が入ってるんだ」

と好奇心に駆られて聞くと、
友達はキョトンとして言った。

「これはお墓だよ」

と。

やっぱり不気味になって、
開けたくないと俺が言うと、
そいつはゲラゲラ笑って躊躇なく開けようとした。

でも開かない。

しっかりアロンアルファか何かで止められているようだ。

そして不思議と箱を傾けたり何だりとしているのに、
中から音はしなかった。

いよいよ不気味になってきたので
本気でやめさせようとした。

しかしそいつは躍起になっているようで、
聞いてくれない。

だんだん玉虫の羽が削げ落ちていって、
電車の中で見た箱とだんだん似てきて。

俺は恐ろしくなって、
そいつから箱を奪って逃げだした。

どこをどう走ったのかわからないけれど、
いつの間にか俺は病院のベットにいた。

車に跳ねられたらしい。

俺がいきなり車道に飛び出してきて
牽いてしまったらしい。

幸い軽い脳震盪で何ともなかった。

そのときに箱の行方を聞いてみたが、
知らないと言われた。

病院を出て、
事故現場に案内してもらって探したが、
無かった。

だが事故現場の真ん前は、
森のようになっていて、
昔玉虫を取りにいったところだった。

夏だったせいもあって、
蝉の声もして
昔にタイムスリップしたような感覚だった。

俺は玉虫たちは
自分たちのもといた場所に戻ったのだと
信じることにした。

その日から玉虫の夢は見ていない。

そして友達はその日からまた
玉虫の厨子を作っているらしい。

あの天袋にあった玉虫の厨子の美しさが忘れられないらしい。

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