これは俺が小さい頃の記憶だ。

その日、お婆ちゃんの家に家族で遊びに行った帰りの事だった。

子供の時間感覚で凄く遅い時間で、
真夜中だと記憶している。

親父の運転する自家用車で家路へ走っていってたんだけど、
親父も疲れてたんだろうか、
休憩しようって話を母として、母も賛成した。

それで車を走らせながら、
どこにしようか、あれでもないこれでもない、
って話を親父と母がしていて、
偶然見つけたであろう、
道の途中にあったバーのようなお店を見つけて、
そこに決めたんだ。

店内の様子は…普通のバーだ。

薄暗い店内に、
カウンターがあって固定式の椅子。

映画やドラマに出てくる感じの、
クラシックな店内だった。

客は、俺たち家族以外はいなかったと記憶している。

マスターらしき人は気さくな人で、
親父と母に何か楽しげに語りかけていた。

俺はミルクをもらった後に、
店内の入り口近くのちょっと広いスペースで、
遊ばされていた。

それで、しばらくすると、
お店で『何か』が起きたらしく、
マスターの様子が急におかしくなった。

マスターが動揺を隠せない感じで何か親とやりとりをし、
少しチラッと入り口と逆の方向(裏口?)を見た瞬間に、
また『何か』起きたらしい。

凄い形相と声で、

「早く逃げてください!!!!早く!!!」

って親に言い出したんだ。

親も『何か』が起きたのを把握した様子で、
親父は俺を小脇に抱えると、
物凄い勢いで店の外へ飛び出して、
車に乗り込んで発車した。

車内で、
俺は何が起きたかわからず呆然としていた。

そんななか、
パニック状態になって親父に何事かわめいている母親に対して、
親父が母と目をあわせずに、青ざめた顔、震えた口調で、

「忘れろ!見たことは忘れろ!何もなかった!」

って言っていた。

俺としては、
親父のあんな顔は初めてだし、
すごく驚いた記憶がある。

お話としてはこれで終わり。

憶測になるけど、
地震・火事・天災・ヤーさん関連・
猛獣(地方都市っぽいからいないと思う)ではなかった。

親と喧嘩して家から出ているから、
真相なんてわかんないし、
仮に『何か』が大変な事でも、
親父と母のことだ、
適当にはぐらかすだろう…

一生謎なままだ。

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