当時、俺は大学卒業を控えて
就活やら研究に追われていたのだが、
長い夏休みに入ったので
気晴らしに東北各所を回ってみることにした。

車の一人旅だから気楽なもんで、
気の赴くままにぶらりと適当な場所に寄ったり、
運転に疲れたら車を止めて昼寝をしたりと、
基本的にはプラン白紙のフリーな旅だった。

1日目はひたすら東北を北上して、
青森の国道脇にあるコンビニの駐車場で一泊した。

その翌日は市内をぶらぶら歩き、
ねぶたを見たり商店街で買い物をしたりして楽しんだ。

2日目の夜。

秋田県のとある道路に差し掛かったとき
辺りは既に真っ暗で、
車内のデジタル時計は午後10時をまわったところだった。

ラジオから流れる音声に
やたらとザーザー雑音が入り
不快になったので電源を切り、
かわりにカーナビを見てみた。

当然、周囲は全く知らない地名の場所。

ここ一体どこよ…などと思いつつ
アオカン(青看板のこと)とカーナビを頼りに国道を南下し続けた。

しばらく進むと、
左手の方向にものすごく細い山道が
山の奥のほうへと続いているのが見えた。

この先には何があるのかな?と気になったので、
少し怖かったけどそのまま左折して細い道に入った。

道路はすぐに砂利道となり、
ゴトゴトと音を立てて
ヘッドライトを除く一切の光源のない道を進んでいった。

タイヤが傷むのも嫌なので
そこそこのところで引き返そうと思いながら
Uターン可能なスペースを探していると、
前方にオンボロの小さい小屋が見えた。

家というよりは何年も放置されている物置みたいな外観で、
ところどころ木造の壁がはがれ落ちていて
今にも崩れそうな感じだった。

外からみた感じの広さは
せいぜい6~7畳程度だったと思う。

とにかく気味の悪い小屋だった。

幸いUターンできるくらいのスペースが脇にあったので、
慎重にバックして方向転換を試みた。

その時、唐突に、ボロ屋のほうから変な音が。

「ゴトン、ゴト、ゴト、ガコンッ、ガコガコッ」

何本かの木材がぶつかり合うかのような音。

背筋に戦慄が走った。

立て掛けてある木材が自然に倒れる音にも似ていたが、
それにしてはあまりに不自然な音で、
何かが小屋の中で動いていて、
家の中のものと接触して鳴っている音にしか聞こえなかった。

辺りが真っ暗な上、
何もない場所だったから余計に怖くなり、
急いで方向転換を終わらせようとハンドル操作をするも、
つい小屋の前に目がいってしまった。

ちょうど、何か真っ黒いヤツが
小屋の中から出てくるところだった。

そいつの体は全身毛むくじゃらで、
ドス黒く長い体毛?みたいなのが全身びっしり生えていて、
子供のころに児童向けの絵本で見たような
山男か雪男みたいな風貌だった。

しかしそいつの身長は小学生くらいに小柄で、
顔の辺りまで真っ黒な毛で覆われているから
目や鼻や口があるかすらも分からなかった。

でも、関わったら絶対にヤバイ雰囲気があった。

自分でも信じられないくらい体がガチガチ震え出し、
涙が滝のように流れてた。

そいつは全く喋らないけど、
なんというか、悪意なんて生易しいものじゃない

禍々しいものを全身に内包しているようだった。

ただ、逃げるしかないと思った。

一刻も早くその場から離れようと夢中だったから
細かいことは何一つ覚えていない。

気がついたら隣県のセルフのガソリンスタンドにいた。

後はもう、どこにも寄り道せず
国道をひたすら下って自分の家に帰った。

自分ちの駐車場でトランクを開けると、
小さな羽虫の死骸が散らばって入っていた。

洗車用のバケツにはこげ茶色の汚い水がたっぷり入ってて、
生きた羽虫が何匹かたかっていた。

水のある場所なんて一度も行ってないし、
そもそも旅に出てからトランクを一度たりとも開けていない。

その日からしばらく悲惨な日々が続いた。

大学の学食に行くと
スープがあのバケツの茶色い水に見えて飲めなかったり、
講義で隣に座った友達の肌に
小さな羽虫がびっしりついていたこともあった。

卒業研究を一時中断して精神科に通い、
薬を飲んでなんとか落ち着いて、
虫が見えたり茶色い水が見えたりすることはなくなった。

でも、あの小屋にいた
真っ黒いヤツのことは忘れられない。

アイツは一体何だったのか?

関係あるか否かは分からないけど、
この一人旅をする1ヶ月ほど前に、
東北地方の中では相当危険とされる心霊スポットに
足を運んでいたのを思い出した。

そこに行った時は何ともなかったのに…。

小さな道や細い道には
もう二度と入らないと誓った。

肝試しに行く際にはくれぐれもご用心を。

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