これは実体験だが、
自分自身には記憶が無いので体験談と言っていいのか判らない。

自分は子供の頃、
二階の部屋で祖母と一緒に寝るのが常だった。

うちは元旅館で、
その建物をそのまま住居に使っていたので、
各部屋には外に面した大きな窓がある。

ちょうど今頃の季節、
お盆休みの頃。

ある朝起きると、祖母が

「おめえ、夕べどうしたんだ」

と聞いてきた。

何の話をされているのか判らず、

「昨日って?」

と聞き返すと、

「おめえ、昨日窓から出て行こうとしてたぞ」

と言われた。

祖母の話はこうだ。

夜中、ちょうど深夜二時ごろ。

それまで普通に寝ていた自分がフラフラと起き出し、
窓の前にいきなり正座して座り込み、
ガラス戸をトントン、トントン、トントン…とひたすら叩き出した。

気配に気づき、
目を覚ました祖母が

「何してるんだ」

と声をかけると、
自分はただじっと前を見つめて戸を叩きながら、

「あけて」
「あけて」
「あけて」

と、何度も壊れたレコードのように繰り返す。

ああ、寝ぼけているのかと思った祖母は、

「寝ぼけてねえで寝ろ」

と言ったが、
自分は今度は、
ガリガリとガラスを引っかきだしたという。

「入れて」
「入れて入れて入れて入れて入れて入れて」

ギリギリと爪を立て、
そうぶつぶつ呟きながら。
夏といえど窓の鍵は閉まっているため、
引っかいた所で開くはずはない。

流石に薄気味悪くなった祖母が、

「いい加減にしろ!窓なんて閉まっててあかねえんだから!」

と声を荒げると、
自分の動きはぴたりと止まり、
またフラフラと布団に戻り、
何事も無かったかのように寝てしまったと言う。

翌朝そんな事を言われても、
自分にはさっぱり覚えが無い。

夢を見ていたという覚えも無いし、
むしろ寝覚めは爽やかだった。

「寝ぼけて窓から飛び降りなくて良かったね」

と言う母に、
祖母が思いついたように、

「そういえば今日はお盆だなぁ。
お前が窓から出て行こうとしたんだと思ったけど、
戸が閉まってて入れなかったご先祖様が、
入れろって言ってたのかもしれねぇ」

と言った。

ちなみに、私は
『見えないけど霊に頼られる体質』と言われた事がある。

それが本当かは確かめようが無いし、
その後この時のような事は起きていないが、
一人暮らしになってからは、
知らない間に誰も居ない部屋で飛び降りたりしないか、
不安になる事があるのは確かだ。

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