友人の親戚の家で聞いた話を。

友人の叔父の家が県内の山間にあって、
格闘家である俺とその友人は学生時代、
最後の「修行」と称して
ミットや拳サポーターを持って一週間ほどやっかいになった。

その集落には同じ名字の家ばっかりで、
叔父さんの家は分家らしいけど昔は大所帯だったらしく部屋が沢山あり、
迷惑にならないかなという当初の心配は無用のものとなって快適な一週間だった。

俺らの食事は基本タマゴの白身とプロテインだったので、
そっち方面でもお手を煩わせることはなかった。

滞在予定も半ばを過ぎると
叔父さんや従弟さんともかなり打ち解けてきて、
色々な話ができるようになった。

5日目だったかな、夕飯の後に、

「ちょっと離れると(地元鉄道会社)の車内に
ポスターが貼られるようなお祭りもあるし、
登山とかも盛んだけどさ、
ここはそういうのないの?」

となんのけなしに聞いた。

従弟さんは

「ああ、この辺の山は昭和の登山ブームとかにも乗り遅れたし、
なにより出るから、観光客向けじゃないんだ」

とニヤニヤする。

「幽霊?」

「幽霊も出ると思うんだけど、
どっちかっていうと妖怪かな」

俺は興味津々だったが、
オカオタ根性を出すのも失礼と思い

「そうなんだあ」

と冷静を装った。

「明日、教えてあげるよ」

明日?

明日になれば妖怪のところまで案内してくれるのか!
とワクワクしてその日は寝た。

でー、
翌日はいつ従弟さんに声をかけてもらえるんだろうと、
気もそぞろに腹筋したりスパーリングしたり野草食ったりしていたんだわ。

んだら日も暮れた頃に従弟さんから声がかかって。

「昨日の妖怪の話ね、
準備できたからついて来て」

とついてくるよう指示が出た。

ちょっと山に入るには遅いんでないかなあ、
と訝しく思っていたんだけれども、
案の定、通されたのは和室の一つで、
まん中に叔父さんがデーンと構えていて、
その前には一冊の本がおいてあった。

「座って」

と促されて用意してあった座布団に腰掛けると、
叔父さんが

「○○君はこの山がなぜ観光地になっていないのか、
それには妖怪が関わっているのかどうか、
興味があるそうだね」

と鼻息荒くしている。

興味はあるけど
従弟さんから持ちかけた話なのになあ、とか思った。

「まあ妖怪というか神様というか、
その間みたいなものがいるんだよ。
××(友人)には昔、話したことがあるんだがね。
その本の△△ページを開いてごらんなさい」

本は□□村郷土史誌とかなんとか書いてあって、
カビ臭くてオバケが出そうな感じだった。

市の図書館にあるような立派なのじゃなくて、
同人誌みたいな装丁だ。

叔父さんに言われたページを開くと、
□□報恩なんちゃら隊とかっていう小項目があった。

ちょっと目を通すと、
昭和の終戦時に降伏をよしとしない青年達が集まって本土決戦を呼びかけたが、
武装して山に篭って結局は首謀者その他が割腹自殺、みたいな話だった。

例の大きな祭りの開かれている市の若者も呼応して、
ちょっとした騒ぎだったらしい。

「彼等の霊が出るんですか?」

そう聞いたら、

「だから霊じゃなくて、妖怪なんだって」

と従弟さんに横槍を入れられた。

「こっちも見てみなさい」

叔父さんはそういって、
背後に隠していたまたまたボロっちい冊子のようなものを差し出してきた。

開かれていたページは手書きで、
ところどころ漢字や仮名の使いが古くて読みづらかったが、
大体こんな感じだった。

『件の青年達は時機を悟り本日未明、潔く帰宅した。
国の今後を担う若者達は聡明だ。
腹を割って果てた首謀者郎党は四十を過ぎ分別もあるのにけしからん。
気になるのは今朝運ばれてきた彼等の遺体はおよそ刃物によるものでなく、
手榴弾を頬張って爆死したかのように腹が裂けていたことだ。
臭い始めており、あまりに酷なので長くは見なかったが、
割腹ではないことだけは自分にも分かる。
若者達も多くを語らず。
ただ夜更けに首謀者郎党、人知れず割腹していたとのみ。
おそらく猿神様』

「猿神ってなんですか」

とおもむろに聞くと、
叔父さんは鼻息を荒くして、

「このあたりの守り神で、
(村の)入り口の所にほこらがあったろう?
あそこで祀られているんだ。
ここは霊峰というほどの所ではないが、
猿神様に古くから守られているんだ。
だから、登山客や観光客に気安く入られると困るわけだ。
神様が何をするか、知れないからね」

つまりは村の若者をそそのかしたオッサン達を
猿神様が夜中に襲撃して腹をブチ割った、というお話。

んで、山のマナーを知らないよそ者が
下手なことをして同じ目に合わないよう、
敢えて観光化は慎んでいる。とのことだった。

その後は本家の家の幽霊話とかを聞いて、
酒飲んで寝た。

翌日、友人にその話を質した。

「その手書きの方は大叔父か大大叔父の日記なんだけどね。
俺の時は本家の人もいたからそっちの文も読んだ。
登山ブームの時に鉄道会社の調査員が色々と話をもちかけてきたけど、
山の神を理由に断ったみたいなことが本家の人の日記に書いてあったよ。
最初は観光化に取り残されて苦し紛れの後付かと思ってたけど、
案外本人達は本気みたいだね」

とのこと。

だそうな。

ちなみに叔父さんは怪談好きのUFOマニアで、
友人が人を連れてくると決まってこの話を披露するらしい。

友人が聞いたのも
本家と納涼会みたいなのをした時だったとか。

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