しまった!今日がDVD返す日だった!!

夜中布団の中で、はっと気付いた。

時計を見ると1時ちょうど。

店は深夜1時までなのでまだ間に合うかも!

私は飛び起きてレンタル店へ走った。

店に着くと、もう中は真っ暗で営業は終わってしまったようだ。

え~どうして?

いくらなんでも1時ちょっと過ぎまでは営業するだろ、普通。

仕方ない、返却BOXに入れとくか。

返却BOXにDVDを入れようとしたら、
入れ口に何か白いものがあった。

なんだこれ?ビニール袋の持つ部分?

あっ、そうか、私の前に返却した人が
ちゃんと入れずに引っ掛かったんだ。

・ ・ ・もしかしてこれってチャンス?

いいDVDとかだったらもらっちゃおうかな。

周りに防犯カメラや人が居ないのを確認してから、

私は入れ口から少しだけのぞいているビニール袋の端を引っ張り、
引き出そうとした。

「ズルッ」

勢い余ってかなり乱暴になってしまい、
ビニールは破け、中身は飛んで私にぶつかって
バラッと落ちた。

結構大きな音がした。

「カラッ、カラッ・・・」

まずいな、誰かに見つからなかっただろうな?

少しその場を離れて見回してみたが、
大丈夫、誰も居ないようだ。

さて、何のDVDかな?ケースは見当たらず、中身だけ落ちている。

傷がついてなければ良いけど。

私は拾い上げようとして手を伸ばしたが、そのまま固まった。

それはDVDではなく、鏡だった。

手鏡の取っ手部分をむりやり折って
丸い部分だけになった鏡だった。

なんで?!私は意味が解らず、
しばらくその鏡を見つめていた。

その時、店の前を車が通りすぎた。

一瞬だがヘッドライトの光がこちらに向いた。

鏡に反射してピカッと光った。

まぶしい!思わず目をそらしてしまった。

再び鏡を見ると、無くなっていた!

ほんの一瞬目を離しただけなのに。

更に分けがわからなくなって、もういいや、
とりあえず自分のDVD返却して帰ろう。

そういえばあの入れ口、
壊れて無いよな?かなり強引に引っ張ったからな。

入れ口を見てみると、ギョッとした。

入れ口から手が出ていてこちらに向かって

「おいで、おいで」

をしていたのだ。

・ ・ ・いや、待てよ、できすぎだ。

あ~、なるほどねえ。

店を早めに閉めてバイトが私みたいな客に仕掛けたいたずらか!

たしか前に自販機の取り出し口から
手がでていたとかネタがあったよな。

鏡にも糸かなんかついていて
私が目を離した隙に隠したんだろう。

「おいで、おいで」

をしている手を良く見てみると女の子の手のようだ。

ピンクのマニキュアをしている。

耳をすますと、心なしか、小さな話し声も聞こえるようだ。

私は

「うわ~」

と大げさに驚き、一目散に逃げた。

ように見せて、こっそり店の裏に回り
建物の影から入れ口を覗いて見た。

まだ

「おいで、おいで」

をしている。

随分やってるな。

もういいだろ。早く出てこないかな。

もし可愛い子だったらこれをきっかけに・・・などと考えていると、

「ポトリ」

手首から先が落ちた。

・ ・ ・なにも考えられなくなった。
ただただその手首を見ていると、

「カサカサ、カサカサ」

指を足のように使いながら這いずりはじめた。

なにかを探しているかのよう・・・
あっもしかしてあの鏡か?これって相当ヤバイんじゃ。。

「ガタッ」

無意識のうちに壁に体をぶつけてしまった。

すると手首が動きを止めた。

指が5本ともこちらを向いた。

しまった、見つかったか!!

手首は私の方へなにかの生き物のように這ってきた。

逃げようとしたが全く動けない。

「カサカサ、カサカサ」

足を1歩伸ばせば届く所まで近づいた。

もうダメだ、私は歯を食いしばって目を閉じて観念した・・・

だがそれは私の横を通りすぎていったようだ。

だんだん「カサカサ」という音が遠ざかっていく。

5分ほど経っただろうか、
そっと目を開けて辺りをうかがうと、何も無かった。

汗をびっしょりかいたが、
冷静になって自分を思うと少し恥かしくなってきた。

何、真夜中に店の裏で立ちすくんで汗だらだらかいてんだ!自分?

手首が動いたように見えたのも、
ビニール袋が風で転がったかなんかだろう。

は~あ、あほだな自分。

思わず一人ぼけ突っ込みをしながら店の前に出た。

端の方にまだビニール袋が転がっている。

もう騙されないって!

まあ私をあれほど怖がらせたビニール袋だ。

悔しいから1回くらい蹴飛ばして帰るか。

近づいて見ると、ビニールではなかった。

そこには折れた鏡を大事そうに撫でまわしている手首があった。

私は無言で後ずさりをしてクルッと振り返って、
これ以上速く走ったら死ぬかもという勢いで家に帰った。

そしてそのまま寝入ってしまった。

次の日の朝、親が血相変えて起こしに来た。

「お前が良く行ってるレンタル屋、強盗入って女の子が死んじゃったって!」

えっ、昨日返しに行ったけど・・・と言おうとして止めた。

机の上にはまだ返していないDVDがあったので、
昨日の出来事は夢だったんだろう。

あ~変な夢見たな。

なんか良く寝たはずなのに疲れたよ。

店に警察がいっぱい来ていて大騒ぎだから見に行こうと言うので、
着替えようとしたら、何かが胸のあたりからポトリと落ちた。

キラキラ光っている。拾い上げてみると、
鏡の破片だった。

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