では、貴船神社で遭遇した話

かなり昔の話なんで伝わりにくかったらご勘弁。

免許取り立ての頃って皆そうだと思うけど、
車の運転が嬉しくてよく夜中に車であっちこっち行ったもんだった。

その日は俺を入れて
男3人女2人の5人組で友人の運転する車に乗り、
特に行くあてもなくドライブしてた。

ちょうど今くらいの季節で当然というか何と言うか、
肝試しにでも行くかって流れになった。

どこに行こうかって話をしていて、
最初は深泥池に行こうってなったんだけど
以前に俺と友人がちょっと怖い目に遭ったので猛反対した。

そうしたら女の子の一人が
貴船神社の丑の刻参りの話を始めた。

みんな丑の刻参りのウワサは知っていても
実際にやってないだろうと思っていた。

今みたいにネットが普及する前の事だったから、
こういう怖いウワサは人から伝え聞く話ばっかりだったし、
まして人伝に聞く話は眉唾ものだと思っていた。

じゃあ、本当にやってるか確かめようって事になり、
軽い気持ちで貴船神社に向け出発した。

深夜にこんな所を車が通っているはずも無く、
辺りは静まり返っていた。

真夜中で車もいなかったので構わないだろうと思い
手前の駐車場ではなく、
参道入り口の鳥居の前に車を停めておいた。

後でこれが幸いするとは、
この時は微塵も思っていなかった。

懐中電灯なんか準備していなかったので、
山の間から射す月明かりを頼りに参道を昇り始めた。

月が明るくて風も気持ちよくて、
肝試しというより夜の散歩みたいな雰囲気で
普通に話をしながら歩く余裕すらあった。

参道のゆるい階段を上りきり、
門をくぐって手前の広くなっている所にたどり着いた。

さすがに木がうっそうと茂っていて月の光も射して来ず、
さすがにさっきまでの冗談を言い合うほどの余裕は無くなっていた。

ちょっと躊躇いもあったんだけど、
とりあえず奥へってことで暗闇に目を凝らして建物を回り込み、
奥の木立の方へ入っていこうとした。

予想以上に暗く静かなのとさっきまでの余裕が無くなったせいか、
皆一様に無口で雑草や木の枝を踏む音が結構響いているように感じた。

丑の刻参りの釘を打つでも聞こえて来るかと思ったが
そんな音は聞こえて来なかった。

意を決して。とか言うと大げさだが、
皆顔を見合わせ「行くぞ」って感じで足を踏み入れた。

木立の方へほんの数メートル踏み込んだ時に
明らかに自分たちの足音とは違う物音を聞いた。

皆驚いて足を止め、
茂みに身をかがめて息を殺し、
聞き耳を立てていた。

物音は木立の奥から聞こえてくるようだった。

ガサガサと草や木の枝を踏む音が近づいて来るように感じた。

その音は明らかに人間の歩く足音だった。

じっと暗闇に目を凝らしていると
遠くの方で白い物がチラチラと動いているのに気がついた。

チラチラしているのは白い服を着た人が木の間を通っているからで、
真っすぐという訳ではないが確実にこちら側へ近づいて来ている。

さすがに皆マズいと感じたのか小声で

「誰かいるな・・・」

「ヤバくない?・・・逃げようか。」

などと囁いていたが、
これ以上近づくと気づかれそうに感じたので
とりあえず木立から出ようとした。

茂みを5人組で動くとなると
さすがに気をつけていても音が出る。

白い人影がぴたりと歩くのをやめたので、
気づかれたと思い皆一気に茂みから走り出た。

とにかくこんな所で出会うヤツに関わったらロクな事がないと思い、
必死で走った。

後ろの木立から
「あー!!」とも「わー!!」ともつかない叫び声が聞こえたときは
洒落にならないくらい怖かった。

女の子はパニック状態で
「キャー!!」と叫んでいたが
俺達も気がついたら「うわー!!」と叫び声を上げていた。

とにかく女の子を置いて行けないので
慌ててサンダルが脱げて裸足になっているのも構わず、
男全員で後ろから急き立てるようにして走った。

走りながら振り返って後ろを確認すると
明らかに着物を着た人影がこちらを目指して走って来ていた。

俺達は必死で

「こっちに来んな!!」

とか

「おらぁ!!ぶっ殺すぞ!!」

とか口々に意味の無い事を叫びながら走っていた。

参道のゆるい階段で
誰も躓かなかったのは奇跡的だった。

とにかく捕まったら洒落にならないと思い、
すぐに乗り込めるように車の持ち主に

「鍵!車の鍵!!」

と叫んでいた。

普段では出せないくらいのスピードで
一気に参道を駆け下りて車に飛びついた。

鍵が空くまでの時間が物凄くもどかしかった。

鍵が開いた瞬間皆飛び込むようにして車に乗り込んだ。

助手席に回り込んだ俺が最後に参道の方を見たら、
参道の中程で車に乗り込んだ俺達を見て諦めたのか
着物を着た人は立ち止まってじっとこちらを見ていた。

多分その人影は女の人だったと思う。

車を切り返す時に慌ててガードレールを擦ったが、
その間にもこっちに走って来るんじゃないかと気が気じゃなかった。

運転している友人は車をぶつけた事を気に掛ける余裕も無く、
相手は徒歩なのに追いかけて来ないか
バックミラーで確認しながら必死で逃げ出した。

町中へ出てようやく安心してお互いを見やると
みんなボロボロになっていた。

男の一人が膝を擦りむいていたので
恐らくこけていたんだと思う。

女の子も裸足で走っていたので
足が血だらけだった。

もしもあの時すぐ近くに車を停めていなかったら。
もしもあの時捕まっていたら。
と考えると心底ぞっとした。

【意味怖】意味がわかると怖い話の最新記事