小学生のころ不思議な体験をした。

東京の墨田区に叔母さんが住んでいて、
よく泊まりにいっていた。

で、そのころマイブームだったのが、
自転車での朝の散歩。

叔母の住んでいたところは昔ながらも下町という雰囲気で、
小さな家がびっしりと立ち並び、
車すら通れない細い路地が入り組んでいた。

田舎育ちだった私には、
まるでそれが迷路のようで面白く、
泊まった翌日は早起きして、
自転車を借りてその路地を走りまくっていた。

時には本当に迷うこともあったが、
叔母の住んでいた区画は三方は大通り、
残りは土手だったので、
迷ったらまっすぐ突き進んでいればいつかはどこかに出ることができた。

夏のある日、
自分はいつものように朝の散歩に出かけた。

いろいろと走っているうちに、
区画のちょうど真ん中を横切っている電車の高架の真下にでた。

このまま高架に沿って走っていけば、
ちょうど土手の方向にでるはずである。

土手まで走ってみようと、
高架に沿って自転車で走り出した。

高架の両脇に道があり、
高架を潜って右を走ったり左を走ったりしていると、
いきなり犬に吼えられた。

姿は見えないものの、
あまりにも物凄い勢いだったので恐くなって、
逃げるように高架を潜り、左側の道にでた。

その瞬間、
犬の吼え声が聞こえなくなった。

鳴き止んだというよりも、
いきなり途切れた感じ。

そして違和感。

何かが違う。

そう感じて自転車を止めた。

道沿いに小さな家が隙間なく並んだ光景は見慣れたものだ。

けれど明るさが違った。

今までは朝特有の白っぽい太陽の光りだったのに、
いま家や目の前の道路を照らしていたのは、
黄色っぽい夕方のような光りだったのだ。

不審に思いながらも、
何気なく高架を見上げた私はびっくりした。

まっすぐに伸びていく高架の先に山が見えたからだ。

まるで秋の稲穂のように金色に輝く山。

この先にあるのは土手のはずで、
山なんてあるわけがない。

土手と山を見間違えたかとも思ったのだが、
山はかなり大きく、キレイな三角形をしていた。

『やばい』

なぜかその時そう感じた。

このまま進んではいけない。

もし進んだら……帰ってこれなくなる、と。

私は自転車の向きを変えると、
全速力でこいだ。

来る時は右に曲がったところを左に、
左に曲がったところは右へと、

わざわざ急ぎながらも、
来る時とは正反対になるようにして。

何回か曲がった時、
空気が変わったことに気がついた。

自転車を止め、
おそるおそる振り返ってみると、
もうそこに山はなかった。

光りも朝の白っぽい光りに戻っていた。

それから何度か叔母のうちに泊まったが、
朝の散歩にはでかけられなかった。

ようやく確かめにでることができたのは、
二年くらい過ぎてからだ。

高架にそって自転車でまっすぐに進んでいったが、
いつまでたっても山は見えなかった。

それでも進んでいくと、
最後には土手にいきついてしまった。

何度か試したが、
二度とあの山をみることはできなかった。

いったいあれはなんだったのかと、
今でもふと思うことがある。

もしかしたら、
別な次元に入り込んだのかもしれない、
そう思っている。

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