私が幼い頃、
私の家族は毎年夏休みになると
栃木県の那須にある親類の別荘を借り、
そこを避暑地としておりました。

この話はその旅行中に起きた
なんとも恐ろしい体験です。

私が小学校5年の夏。

この年も恒例でその別荘に来ておりました。

かなり山奥にあり電気も通っておらず、人気も無く、
のんびりと夏を過ごすには絶好の場所でした。

滞在4日目。

カラオケ好きの私の両親は
こんな場所に来てまでも
どうしても唄が歌いたくなってしまったらしく、
山を少しおりた場所にあるカラオケスナックへと向かいました。

カラオケスナックとは言えども名ばかりで、
畑の真中にポツンと1件建ってるだけの寂れた所でした。

2時間もそこに居た頃だったでしょうか。

時計は11時をまわり、
私は必死に睡魔と格闘していました。

そんな私を見て
父が車の中で眠る事をすすめてくれたので、
私は父から車のキーを借り
駐車場へと向かったのです。

しかし車の中に入り、
いざ眠ろうとすると面白いもので
まったく眠気が襲って来ません。

私はする事も無く
車の中に置かれていた懐中電灯を手にし、
それで辺りを何の気なく照らしていました。

すると我が家の車の隣に止まっていた車の中に
人影があることに気がついたのです。

子供心に懐中電灯で照らすなんて失礼に当たると思い
懐中電灯を別の方向に向け、
ゆっくりと電気を消しました。

しかしながらどうしてもその人影が気になり、
横になり眠ったフリをしながら
その車をジッと凝視していました。

確かに人がいるようですが
その人も私に背を向けているようで
顔などはまったくわかりません。

でも…。

何かおかしい…。

その人はまったく動かないのです。

横になっているでもない、

かといって
なにか人と見間違えるような物にも見えない…。

私は少し背中に寒いものを感じ、
その場を離れる決意をしました。

その時です、
今まで何の動きも見せなかったその人が
徐々にその体をこちらに向けようとしているではありませんか!

いや、それは正確な表現ではありません。

体ではないのです。

首から上の頭部だけが
ゆっくりとこちらを向こうとしてるのです!!

私は動こうにも
その場から身動きがとれなくなってしまいました。

長く暗闇にいたせいで目が慣れ、
今まさにこちらを向こうとしているその人の顔の輪郭さえも
ハッキリとうかがえるようになっていました。

徐々に、徐々に…。

顔が半分もこちらを向いた時、
私は絶句したまま完全に固まってしまいました。

振り向いたその人の顔は
全面がケロイド状態になっており、
どこが鼻でどこが目なのかすら
判別がつきかねるようなものだったのです。

『逃げなければ!!』

瞬間的にそう思ったのですが、
体が金縛りのようになり、
まったく身動きが取れないのです!!

とにかく目をつぶり

『夢なら醒めてくれ!』

と、何度念じた事でしょうか。

4、5分後。

ゆっくりと目を開きました…。

そこで私が見たものは…。

私の眼前までせまったその人の顔!!!

その後の記憶はまったく無いのです。

気絶したのでしょう…。

父に揺り起こされて目を覚ましました。

その事を父に話すと
夢でも見たんだろうとまったく取り合ってくれません。

しかし私のあまりの狂乱振りに
母がお店の人に誰か車に乗っていたか聞きに行ってくれました。

数分後
店からは母と共に店のマスターが出てきました。

そして私にこう尋ねたのです。

『その人はどんな人でしたか?』

私は夢中でその人の特徴を彼に伝えました。

するとマスターの目から
一筋の涙がこぼれたのです。

そして彼は淡々とした口調で語り始めました。

『それはおそらく4年前に焼身自殺をしたうちの娘です…』

マスターの娘さんは高校でいじめらたのを苦に
自殺してしまっていたのでした。

彼女は駐車場にあったガソリンをかぶり
自らの身を焼いたのだそうです…。

その時、私は思い出しました。

気絶する前に彼女が言葉を発した事を…。

『憎い…』

と…。

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