自分は、オカルトは信じないわけではないけれど、
信じている者に言わせると「オカルト否定派」。

信じていない者に言わせると
「オカルト信者」と言われるような
ものの考え方を持っているタイプ。

不思議なことが起きても、
考えられる全ての可能性というものを考えてから
「勘違い」か「不思議なこと」の決着をつけるようにしている。

オカルト半信奉者とか、オカルト半アンチなどと思っている。
そんな自分の、どう考えても「不思議」な体験。

15年前だろうか。

日韓ワールドカップを少し過ぎた頃だと記憶している。

恥ずかしながら、
その頃の自分はマルチにはまっていた。

どんなマルチか、巧く言えないが、
浄水器を売り捌いていた。

浄水器というと、
あの有名なところを思いつく人が多いかと思うが、
そんな有名な組織ではなかった。

販売するものも、ほんと浄水器だけ。

友人と二人で始め、
友人と組んで個人宅や、
会社事務所に飛び込営業みをしていた。

今では、足を洗って、
健全に会社勤めをしているが、
最近普及しているウォーターサーバーを目にすると、
時々その頃を思い出すこともある。

大体の家が、
浄水器の販売だと名乗るとドアも開けずに門前払いだったが、
それでも順調に売れていた。

自分で設定した、販売ノルマを着々とクリアし、
どのくらいの大金が舞い込むのか、
どんな使い道にしようか、どんな高級車を買おうか、
捕らぬ狸の何とやらな日々を過ごしていた。

さて、不思議な話に入る。

自分の住まいは、地方も地方。

とんでもない田舎。

第一次産業や第二次産業が主であり、
ホワイトカラーなんて町役場で働く人間くらいなもの。

その日は、友人とともに、
隣町の養豚業を営む人物(A)の家に飛び込んだ。

豚舎に隣接する、
一階が事務所、二階が住居という建物。

養豚を営むAがおり、
当たり障りのない会話を進める。

当たり障りのない会話から、
家族構成は、A、その妻、娘が2人、Aの両親であることがわかった。

そんな、当たり障りのない会話から、
本題(浄水器の話)へと運ぶつもりだったが、
話の内容はAの悩み相談となっていたことを記憶している。

悩み相談の中身だが、
主人の父親は永らく老人ホームに入居しているが、
最近は認知症が強くなってきており、
言動もだが、暴力的行動や、厳重な施設の夜間警備を潜り抜けての、
昼夜問わない徘徊行為が増えてきたこと。

Aの妻は体調を崩し入院が続き、
先日退院してきたばかりとのことだったが、
入退院を繰り返すスパンが短く、
一年のうちにかなりの回数、入退院を繰り返している。

そして、原因もはっきりとはわからない、
謎の体調不良とのことだった。

そして、二人いる娘(この時に娘の年齢について、
Aは話してくれたかもしれないが、私が今は記憶していない)のうち、
一人の娘が「体を売って補導され」て
「あまり、学校に行かなくなった」こと。

そういった、家族トラブルが、
仕事や近所づきあい(消防団も自治会も、
参加しないわけにはいかないような田舎である)にも影響し、
最近は自分もまいっているのだという。

この話の途中、お茶を出してくれた、

Aの母親も同席した。

Aの母親は、息子の話を補足するように、
悩み相談とも、誰かに聞いてほしい身の上話ともいえるような話をしていた。

自分も友人も、
うんうんと聞いていただけだった気がする。

しかし、
ひと通りAの話が終わったところで、
自分と友人は、

「水が悪いんじゃないか?
商売も数十年来続いているし、
土地が悪いということはなかろうが、
水は流れも変わるし、
溜まれば、その中に悪いものも溜め込むというし…。」

などと、
アンチオカルトな部分のある自分だが、
霊感商法よろしく、
浄水器の話に強引に切り替えようとしていた。

だが、そんな自分たちよりも、
Aの母親は一枚上手というか、何というか、

「自分たちも、そう思っている部分はあり、
今度、知り合いから紹介してもらった拝み屋を頼んである。
家が上手くいっていない原因が、
不可思議な何かのせいだと思っているわけではないが、
そういったお祓いをすることによって、
自分達の気が楽になるかもしれないし、
あまり金の掛からない拝み屋を頼んである」

と言い出した。

しかし、あまりにこの親子のペースで話が続いては、
自分と友人はここに何をしに来たのかわからなくなる。

自分は、トークテクニックなどあったもんじゃなしに、
強引に浄水器の説明をしたと記憶している。

最終的に、Aからも名刺を頂戴し、

「お祓いが終わったら、自宅用と事務所用。
大型のものが安価ならば、
豚舎にも浄水器を置いてもいいかもしれない」

と前向きな返答をもらい、
その日は終わることとなった。

その養豚業者への往訪から一日二日ほどして、
Aから電話連絡があった。

「今度××日に、拝み屋に来てもらうことになった。
ああいう話をしたこともあるし、
どうせなら、あんたも同席しないか?
俺が、あんなことを話したばかりに、
あなたにも悪いものがうつっているかもしれないし」

一瞬、(おいおい、縁起でもないな…)と思ったが、
その頃は、浄水器マルチを本業としており、暇が多かったこと。

それと、オカルトに対して「半信奉者」だったこともあり、

(自分にも悪いものがうつっていたら嫌だな…)

という、ちょっとした恐怖心と験担ぎで、
同席させてもらうことにした。

友人は、本業というか会社勤めもしていたが、
ちょうどその日が休みであることと、
そういった「お祓い」は、テレビの心霊特集番組くらいでしか見たことがなく、
貴重な体験だから、ぜひとも同席するとのことだった。

その日がどんな天気だったかなどは記憶もしていない。

たしか、友人が自分の家に来て、
そこから自分の車一台で、Aの家を目指した。

Aの自宅兼事務所に到着したのは昼頃だったと記憶している。

その日、Aの自宅兼事務所には、
A、Aの妻、Aの母親、Aが雇っている男性(B)、自分と友人が集まり、
自分達から10分ほど遅れて拝み屋が到着した。

拝み屋は、還暦前後の女性で、
自分の住む農村のどこにでもいるような「オバチャン」だった。

夫?なのか、家族に見える男性に送迎され、
拝み屋と、大きな荷物(祭壇や八足など)を車から降ろしたら、
どこかへ行ってしまった。

いよいよ、お祓いが始まる。

孔雀王だとか、テレビで見るような、
いかにもといった結界を準備する拝み屋。

お祓いは、
自宅兼事務所の一階奥にある座敷のような畳の部屋で行われることになっていた。

商売繁盛の神棚があったが、
神棚があるから、その部屋になったのかはわからない。

「この前、電話で話した神饌ものは用意してあるか?
出してくれ?」

といった会話で、
Aの妻とAの母親が、
台所と事務所を行ったり来たりする。

お祓いの間は、
A家族は当然ながら参加するが、
家族ではないBは、出荷の近い豚も居り、
運送会社から連絡が入るかもしれないからと、
お祓いが行われる畳の部屋から、
二部屋隣となる事務所で電話番をすることになった。

自分と友人は、

「あなたたちも従業員?」

と、尋ねられたが、

「取引先の人だ。
ついつい、今回の話をしたものだから、
悪いものがうつってたら申し訳ないと思って、俺が呼んで、
わざわざ来てもらったんだ」

と、代わってAが答えてくれた。

拝み屋は、愛嬌のある「おばちゃん」の笑顔で

「ああ、そういうこと。
うつったりするようなものじゃないけれど、
まぁ、せっかく来てもらったんなら、
Aさん達と一緒に座りなさい」

と言ってくれた。

拝み屋は、
巫女さんのような格好をするわけでもなく、
よく商店街を歩いていそうな、
おばちゃんの普段着といった格好のまま、
アクセサリーだけを外して、
紙垂の取り付けられた大きな榊の枝を振り、
祝詞を上げ始めた。

神道がベースになっているお祓いであり、
儀式中はほとんど平身低頭の姿勢だったが、
部屋を見渡しても、祭壇のご神体が動くわけでもない。

篝火の炎が激しく揺れるわけでもない。

家族の誰かがトランス状態になるわけでもない。

結界と祭壇こそ、テレビで見るようなものだったが、
テレビでよく見るような、
お祓いの最中に不思議な出来事が起きるなどということはなかった。

途中、微かに電話の音が聞こえ、
その後にBが儀式中の部屋に、
こっそりとやってきてAに耳打ちをしていたが、
Aは

「後で電話するからと言っておいてくれ」

とBに言い、儀式は続いた。

お祓いに参加した者が低頭する中、
その頭上で一人一人を祓い、儀式は終わった。

たしか、拝み屋は、出されたお茶をすすり、
Aの母親に拝み屋を紹介した共通の知人の話などをし、
その辺によくいる「おばちゃん」の笑顔で、

「憑きものとか、狐とかそういうのじゃないと思うから、
これでもう大丈夫だし、
あとは、みなさんの気の持ちようですから」

と、迎えに来た車に乗って帰っていった。

たしか、帰りの際は、自分と友人も、
その車に祭壇や八足を積み込むのを手伝った憶えがある。

とにかく、拝み屋の笑顔から佇まいまで、
胡散臭さなどなく、A家族もお祓いの始まる前よりも、
明るい顔で拝み屋を見送ったのを記憶している。

霊能者もマルチ勧誘も、
胡散臭いものとしてカテゴライズされるが、
何だか自分達だけ胡散臭い存在だなぁ、と、
心が痛んだのを記憶している。

最終的には、こういった心の痛みから、
浄水器売りを卒業したわけだが。

拝み屋を見送った後、従業員のBが

「Aさん、電話電話!」

と思い出したように口を開き、
Aも、はっと思い出したように、
Aの母親に

「そうだ、そうだ。
さっき、拝んでもらってる時に仲町(なかまち:地名)から、
電話があったそうだ」

と話した。

仲町というのは、
Aの母親の実家であるらしい。

Aの家族は、
Aの母親の旧姓や兄弟の名前で呼ぶのではなく
「仲町」という地名で、
隣の隣の町にあるAの母親の実家のことを呼んでいた。

Aの母親は

「おや?何かあったかな?」

「電話は、オヤジさん(Aの母親の弟)か、
息子の○○さん(Aの母親の甥、つまりAの従兄弟)かはわからなかったが、
『がのげ、四つ持ってきてけろ』って言ってたんですよ」

と、Bが言うと、
Aの母親は少し大きな声で、

「バカ言うな!
そんな悪ふざけみたいなことで電話してきたのか?」

と、少し興奮気味で、冗談にもほどがあるとか、
本気でそんなことを電話してきたのか、
などと家族同士で言っていた。

自分と友人は、

(今日は浄水器の話はできないかな)

というのは、雰囲気で感じていたので、
お互いに目配せをしてAの家を後にした。

その後は、車の中で、

「契約は難しいかな?」

「いや、今日はもう話せるタイミングではなかったし、仕方がない。
日を置いて電話してみるわ」

といった会話をして、
その日は、自分の家でゲームをしたり、
食事をした後に解散となった。

Aに浄水器の件を話すのは、
日を置いてと思っていながら一ヶ月近く経ったある日、

たまたまA宅の近くを通ったので、立ち寄ってみた。

Aは、

「忘れていたわけではなかったが、
お祓いの効果なのか何なのか、
お祓いの後から忙しくなったので、
連絡できずにいたのだ」

と、説明してくれた。

具体的には、
Aの父親が精神病院から老人ホームに戻れたこと。

Aの妻の病気もはっきりとし、
簡単な手術をし、今後の入院の予定がなくなったこと。

娘のスキャンダルだが、
娘の通う学校でもっと大きなスキャンダル(地方紙に掲載されるような)があり、
学校内の興味が娘ではないところに移ったため、
学校に行くようになったとのことだった。

自分が聞かされた、
悩みの種は軒並み解決したといったところだった。

「ただな…」

と、Aが語った後日談というのが不思議なこと。

お祓いの後。

拝み屋が帰り、自分と友人が帰り、
Aは、Bに促されたのもあり、
Aの母親の実家「仲町」に電話をしたのだそうだ。

夕方くらいに電話をしたが、誰も出ない。

その後、何度か電話をし、
夜の7時ぐらいに、やっとAの母親の甥であり、
自分の従兄弟にあたる人物に電話がつながったのだという。

「昼間は申し訳なかった。
取り込み中で電話を替われなかった」

「ん?うん、どうした?」

「いや、昼間、電話をくれただろう。
俺じゃなくて、母親に替わるか?」

「昼間の電話ってなんだ?」

「電話してきたんじゃないのか?
俺も、ちょっと取り込み中で、
うちの人夫が電話に出たんだが」

「いやいや、今日は昼間から山に入ってて、
さっき帰ってきたばかりで、
電話なんて掛けられないぞ」

「あれ?
そうしたら、お前の親父さん(Aの母親の弟)かな?
『がのげ』だか『まろげ』っていうのを
『四つ』用意してほしいって言われたんだが…」

「はぁ?バカ言え。
なんでそんなこと言わなきゃならないんだ。
お前、ふざけてるのか?」

「いやいや、ちょっと待て。母親も
『がのげ持ってこいなんて、そんな電話する人間がどこにいるんだ』
って興奮してたが、
『がのげ』って何のことだよ?」

「いや、お前の地域でも言うだろ…
『がのげ』つったら『がんおげ』、『棺桶』のことよ。
しかも、大昔の、仏様を屈んで入れる丸桶のことを、
こっちのほう…うちの親父ぐらいの年の人たちは
『がのげ』とか『まろげ』(まるおけが転訛した?)って言うんだよ」

Aも、それには驚いて

(それで、母親もそんなバカな頼みごと電話があるわけがない)

と興奮していたのかと思ったそうだ。

Aは

「そうしたら、
電話してきたのは親父さんでもないか…?」

と、尋ねると

「あ、○○さん(Aの母親)から聞いてなかったかな…、
うちの親父この前から総合病院に入院してるんだよ。
それで、俺と妻が山仕事に行ったら、
家には母親しかいないんだよ」

と帰ってきたとのこと。

Aは、それは失礼なことを、と謝りつつも、

(おかしいなぁ。
Bも間違えたり、変なこと言う人間じゃないしなぁ)

と思ったそう。

その後、AとA母親で話したそうだが、
丸い棺桶はもうAの母親(当時で70歳くらい?)が、
自分の祖母の葬儀の時に見た切りで、
『がのげ』『まろげ』という言葉を使うのは、
地元の高齢者でも、ほとんどいないのではないか。

また『四つ持ってこい』というのは、
Aの母親の兄弟が4人兄弟なので、
少し気味の悪いものを感じるといったことを話したそうだ。

そこで、拝み屋に再度お祓いを頼もうかと、
拝み屋に電話をしたそうだが、拝み屋曰く

「多分だけどね、
それは、お宅に憑いていたものが祓われたくなくて、
苦し紛れにしたイタズラだから。
気にしなくていいですよ。
○○さん(Aの母親)の実家を名乗ってたからといって、
○○さんに何か憑いていたわけでもないですよ」

と、軽やかに諭されたと。

実際のところ、先に述べたように、
家庭環境も良いほうに向かっており、
不思議な電話の後に何かが起きたりしたこともないそう。

最終的にAには、
ウン十万円の浄水器を4台も購入してもらったので、
お祓いに参加したことも含め、
15年前と言えど記憶には残っている。

友人は、お祓い後日談を「怖い」と言いつつも、

「抜け駆けしてA宅を訪問しやがってズルい、おごれ」

と言われたりもした。

自分は今は、マルチからも足を洗い、住まいも変わり、
家族を持ち、真っ当な仕事をしている。

なぜ、この幽霊も何も出てこない、
不思議な電話だけの話をここに書いたかというと、
この前、実家に帰省した際に、
Aの豚舎の近くを通って思い出したこと。

そして、一緒にマルチをしていた友人と飲みに行ったときに、
A宅での不思議な話を思い出し、
酒の肴にしようとしたところ、
友人がこの件を全く憶えていないという、
新たな不思議に遭遇してしまったからだ。

一緒に浄水器を売ってたあの頃のことは、
黒歴史だよなぁ、お互い嫁さんには話せないよなぁ、
という話では盛り上がったのだが、
養豚業者Aを訪ねたことも、
その後浄水器4台成約になったことも、
お祓いに参加したことも、
お祓いの後日談がちょっと不思議だったよなと話しても、
友人は養豚業者Aのことは、まるで記憶にないという。

「隣町の、ここを通っていくと豚舎があるじゃん」

というと

「そこはわかる。その豚舎の先にある川で、
春先に大きなヤマメを釣ったばかりだし」

といった塩梅だった。

オチらしいオチもなく、
これだけ長い話になってしまい、申し訳ない。

帰省から、自宅に戻ってきた今は、よくある

「怖い体験や、つらい体験の記憶を、無意識のうちに封じ込めてしまう」

というやつなのかなぁとは、思っているが…。

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