霊感なんて、まったく無くて
自分には生涯無縁だと思っていた俺の唯一の体験。

以前勤めていた会社は
4階建てのこじんまりとした自社ビルで
古いながらもエレベーターもついていた。

で、一番最後に帰宅する人が、
全ての階を見て回って
消灯などを確認するという取り決めがあった。

その日、俺はPCのトラブルで同じ課の人と二人で
22時頃まで残っていて、仕事が終わってから、
同僚と取り決めとおり、
4階から順番にエレベーターで降りながら
各階の電気を確認していった。

2階のチェックも終わり、
残すところ後1階だけ。

そう思いながら、
1階に降りるとフロアの様子が変だった。

1階は大きく開けてるはずなのに、
エレベーターを降りて
まっすぐ歩くと、棚にぶつかったのだ。

真っ暗で、
ほとんど何も見えないけど
明らかに、物の配置がおかしい。
そう不審に思ってると同僚が

「おい、ここ2階じゃないか」

とぽつり。

言われてみれば、
エレベーターを降りてまっすぐの場所に
棚があるのは2階だけだ。

でも、さっき2階はチェック済みだし
その後、乗ったエレベーターで確かに、
下の階に移動する感覚があったのに。

「と、とりあえず、下に降りようか」

そういって、
下に降りようとした時に、
フロアの隅にあるトイレから
ジャーと水洗を流す音が聞こえてきた。

それと同時に、
トイレの明かりが急についたのが
トイレのドアのすりガラス越しにはっきりと見えた。

「誰か、いるのかな」

思わず、同僚と顔を見合わせたが、
そもそもトイレの電気のスイッチは
トイレの外側についているので、
中にいる人が点けられるはずがない。

一瞬で鳥肌がたって、
同僚ともどもエレベーターに乗り込んで
閉まるボタンと1階のボタンを連打。

エレベーターが古いせいか、
閉まるまで時間がかかるが
その間、怖くて仕方が無いのに
トイレの扉から目を離せず。

ようやく、
エレベーターの扉が閉まってくれたときはほっとした。

でも、また2階だったらどうしよう。

そんなことを考えていたけど
今度は無事に1階に着いた。

タイムカードを押して、
鍵を閉めて一段落ついたところで

「あぁ、良かった」

そういいながら、同僚を見ると
ひきつったような顔をしていた。

「どうした」

と問いかけると、
とつとつと教えてくれた。

2階から降りるときに角度の問題で、
俺には見えなかったんだけど
扉が閉まりきる直前に、
トイレの扉が開いたらしい。

「何か見えたのか?」

と聞くと、同僚は首を振った。

「なにも、ない。何も見えなかった。
誰も居なかったのに水が流れて、
電気が点いたんだ」

と。

この1件があるまでは、
一人で残って戸締りとかもやってたんだけど
怖くて、最後まで残れなくなった。

【意味怖】意味がわかると怖い話の最新記事