高校生だった時の話。

学校から帰ったらワンコの散歩に行くのが日課で、
その日も当然ワンコを散歩に連れてった。

県大会が近くて、
部活終わったのが遅かったから
帰って散歩に出た時は夜の9時を過ぎてた。

家を出てすぐ右に曲がり、
そこから町内を一周してくるんだけど、
その途中に【事故多発!】って看板と、
看板の下に何週間かに一度の周期で
新しくなる花束が置いてある。

(5年くらい前にそこで轢き逃げがあったから
たぶんその遺族が供えてるんだと思う)

で、その日そこを通ったら髪
の長い女の人がしゃがんで
看板に向かって手を合わせてた。

ああ、遺族の人かなって思って
そのまま通り過ぎようとしたんだけど、
それより早く女の人が立ち上がってこっちを振り向いたんだ。

女の人は涙を流してて、
こっちに気付いたのか
軽く会釈したから慌てて会釈し返したんだけど、
気まずくてすぐ顔を逸らすと
そのまま足早に女の人の横をすり抜けたんだよ。

そしたら後ろから

「知りませんか」

って聞かれたんだ。

えっ?って振り向いたら
女の人はこっち見てて、

「貴方は知りませんか」

ってまた聞いてきた。

「何をですか?」

って聞き直すと、
女の人はまたボロボロと涙をこぼしはじめる。

顔を伏せて喉を引きつらせながら
ヒックヒック泣きじゃくりはじめて、
すっかり困ってしまったワンコと俺。

女の人は泣きながらも

「知りませんか」

って言葉を繰り返してる。

あ、もしかして事件のことを知ってるかっていいたいんかな?
って思って

「5年前の事故のことですか?」

って聞いたら
女の人は一層激しく泣き始めた。

時間が遅くて、あまり人が出歩いてないとはいえ、
もしこんなとこを誰かに見られたらややこしくなりそうだなぁ、
と正直勘弁してくれって感じだった。

かといって無視して行くのも憚られるし、
取りあえず

「あの、もう9時過ぎてるんで帰った方がいいですよ」

って声をかけた。

そしたら女の人がキッ、と顔を上げて…
その瞬間俺は問いかけに振り向いてしまったことを激しく後悔。

女の人の顔は陶器みたいに真っ白、
血走った目が今にも飛び出しそうになってて、
口の左端から耳の方にかけて大きく肉が削げてた。

心臓が止まりそうなくらいビビってる俺に

「本当に知らないのか」
「それともお前か」

などとたたみかけてくる彼女。

しかもじりじり近付いてくる。

しまいには

「殺してやる」

と言い出す始末。

その時、連れてたワンコが勢いよく吠えだした。

しかも今までに聞いたことないような吠え方。

そしたらビックリした俺の体は
無意識にその場から逃げ出してた。

その場にとどまって吠えようとするワンコのリードを
思いっきり引っ張って全力疾走。

女が付いてきてるのか振り返って確認する勇気もなく、
あとはただ一刻も早く家に着くことを願ってた。

しばらく走って、
家が目の前に見えた頃になって
ようやっと立ち止まり
俺は後ろを振り返ったけど
そこにはもちろん誰もいない。

安心し、ヘロヘロになりながら
ようやく玄関に着いて、
中に入った俺は鍵を閉めようと
閉まりかけたドアを振り返った。

その、ドアが完全に閉まるほんの一瞬、
隙間から見えたそこには恨めしそうな顔して俺を睨む女が立ってた。

それからはその女を見てないけど(散歩コース変えたし)
あんときはホントに心臓が破裂するかと思ったよ…。

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