母の友人から聞いた話です。

臨月に入った、
ある奥さんが電車に乗った時の出来事。

上品な紳士に席を譲られ、
お礼を言って座りました。

その紳士が下車する一瞬、
紳士の着るスーツの襟に付いた
見覚えのある社章に気付きました。

「主人と同じ会社だ」

帰宅したご主人に事の顛末を話しました。

奥さんから聞いた背格好から推定し調べた結果、
顔見知りの、別の課の課長さんである事が判りました。

課長さんは

「ああ、君の奥さんだったのか。こんな事もあるんだねぇ」

と言い、
この偶然について驚いていたそうです。

3ヶ月後。

課長さんの自宅に、
奥さんの名前で一通のハガキが届きました。

赤ちゃんの写真が印刷され、
その横にはこう書き添えられていました。

「その節は、ありがとうございました。
この子は、あの時の子供です」

その日、課長さんの家は、
大変な修羅場と化したそうです。

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