私、東京在住のプログラマーを生業とする者です。

以下は、私が前の勤め先を辞める直前の頃の事です。

バブル崩壊の余波は、
その会社にもモロに来ました。

取引先のほとんどがメーカーだったのが
まずかったんでしょう。

取引先に設備投資を抑えられたら、
収入はがた減りです。

で、まずはリストラの一環として、
社屋を明治通り沿いから、
賃借料の安い、武蔵野方面へと引っ越す事になったのです。

色々と不都合があって、
明確な地名等は明かせないんですが。

そこは、一番太いパイプのあるメーカーさんも近く、
駅からも徒歩3分程度という、
言わば好条件だったんですが・・

冒頭で書いた通り、
私には、最初から

「こりゃぁちょっと・・・」

という感じがしていました。

まず、建物の形が実に不自然。

まぁ、狭い土地に建物を詰め込もうとしたせいなんでしょうが、
真上から見ると、ひずんだ三角形なんですね。

で、一番の鋭角に当たるところで、
丁度道がY字型に分岐してて、窓から下を眺めるに、
どうにも見通しが悪そうで、
実際、事故もちょくちょく起きてました。

交通の便等は良いんだけど、
でも長居はしたくない、

そんな感じを抱かせる場所でした。

そこに引っ越して1月と経たない頃、
小さな地震がありました。

震度そのものは大した事もなかったんですが、
何しろ高いビルの最上階、その無駄に揺れる事。

「おお、こりゃぁ来るなぁ」

などと同僚と軽口を叩いていた時、
突如部屋の中に、

「パシーンッ」

という音が響きました。

窓でも割れたか、建材に異状でもでたか、
はたまた単にホウキでも倒れたか。

しかし、ビルにも、室内にも、
何ら異常は見つけられませんでした。

こんな事がちょいちょいあって、
ますます鬱陶しい
(私、この手の体験は多い方なので、
どちらかと言えばうんざり気味だったのです)
なぁ等と思っていた頃です。

お恥ずかしい話ですが、
ある仕事がえらく遅れてしまい、
納期ぎりぎりに間に合うかどうか、
という事になりました。

で、これは徹夜しないと間に合わないな、と。

物凄く嫌だけど、
一人で徹夜仕事をする破目になった訳です。

深夜をだいぶん過ぎた頃です。

ビルの外へ夜食を買いに出ました。

勿論、無駄な電灯などは皆消して、
自分が使っている以外のコンピュータ(当時は、まだPC-9801でした)
も電源を落として。

で、部屋に戻っておにぎりのパックを破っている時に、
ふと異状に気づきました。

部屋の隅の方にあるPC-98の電源が入っている。

自分が使っているのとは、別のマシンです。

はて、全部落としてあった筈だが、
さては忘れていたか。

その時はそう思い、
やれやれと思いつつ、
そのマシンの電源を落としました。

食事を終え、
さて、仕事のつづきを、
とマシンに向き直った時。

背後で、

「Pipo!」

という音が。

間違いありません。

PC-98特有の起動音です。

「え?!」

と振り返ると、
確かにさっき電源を落としたマシンの画面が光っていました。

どれくらいそうして凍り付いてましたか。

気を取りなおし、
また電源を落とし、仕事を再開。

だが、ふと気を抜くとまた

「Pipo!」

そんな事を何度か繰り返し、
ついに天辺に来た私は、
翌朝上司に嫌味を言われるだろうと思いつつ、
部屋の明かりを全て点け、
くだんのマシンの電源コードを引っこ抜き、
CDをかけて仕事に没頭しました。

3時過ぎには仕事を終え、
眠りについたと思います。

で、翌朝。

私が仮眠室兼用の会議室から出て来ると、
部屋の中がざわついている。

見れば、例のマシンの周囲に人が集まっている。

「君、昨日の夜このマシンいじったか?」

と上司に聞かれました。

「ATOKがいかれてるんだよ。
どうにも文字化けばっかりしてさ」

と。

確かに、変換しても
画面には出鱈目な文字化けしか出てこない。

が、私は、その文字化けの中に、
一定の法則があるのを見つけてしまいました。

ぐちゃぐちゃな文字の中に、
時折現れているまっとうな文字。

それはどれもこれも不吉というか、おぞましいというか、
そういった印象を抱かせるものばかり。

「死」「腐」「憎」「病」…

そういった文字。

画面全体の文字化けを眺めても、
何か、そこから睨まれているような。

昨晩の説明もそこそこに(到底信じては貰えかろうし)、
ソフトの再インストールから、
ハードディスクのフォーマットまで色々試しましたが、
結局そのマシンは直らず、
更にその翌日には、廃棄処分になりました。

それ以来、私は

「二度とこの部屋で徹夜などするまい」

と決めました。

まぁ、それどころか、
会社そのものを辞めてしまったんですが。

あの現象がどんな意味を持っていたのか、

あるいは、何の意味も持たない、
言わば通り魔的なものだったのか。

それすらも解りません。

先日、その会社の近くに住む友人宅を訪れた時、
そのビルまで行ってみたのですが、
案の定というか、何というか、
その会社があったフロアは貸し出し中になっていました。

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