メニエル症候群で入院した時の事なんだけど。
甲斐甲斐しく面倒を見てくれた彼女を、怖いと感じた話。

まず朝起きた時、
めまいと吐き気で体を起こせなかった。

周りがぐるぐる回ってて頭も痛くて、
俺は脳の病気かと思ったんだけど、
彼女は俺の額のあたりに手をかざしただけで、

「三半規管だね。
脳じゃないから大丈夫。
落ち着いて」

と言って、
俺は救急車で運ばれた。

自分ではもう死ぬんだと思ってたけど、
彼女が言ったとおり三半規管の病気で、
2、3日の入院が必要と言われた。

この時、
彼女は既に入院準備をして救急車に乗ってくれていて、
しかも5日分の用意で結構な荷物だった。

その時は荷物多すぎと笑ったけど、
後日、本当に入院が5日間に延びた時はぞっとした。

その日、
彼女は消灯時間までいてくれて帰ったけど、
病室を見回して、

「夜もいてあげたいけど無理だから、
出来るだけ毎日来るね」

と言って帰って行った。

その夜はひどく魘されたし、
金縛りにもあった。

次の日の朝、食欲はあったけど
目が回るから体を起こせなくて、
配膳されても一切手をつけられずに、
朝食が下げられていった。

すると、検温と回診が終わった頃に彼女が来て、
まるで食べられなかった事がわかっていたかのように、
寝たままで食べられるようにおにぎりや、
俺の好きな物をお弁当にしてきてくれた。

その日の昼は、
彼女が用事があるので、
昼の分もおにぎりを多めに作ってきてくれていたのだが、
行かなくても良くなったので、
昼は横になったままで病院食を食べさせてもらった。

点滴の効果でウトウトしてきて、
目が閉じる時に、
ナイトテーブルに、
ラップに包んだおにぎりが3個置いてあるのが見えた。

ここからは多分夢の話。

俺が眠っている横で、
彼女は昼に使ったスプーンや箸を洗いに行ったり、
溲瓶の処理をしたり、
一通りの事をしてから、
椅子にかけて本を読んでいた。

すると、
ナイトテーブルの引き出しから、
血だらけの青白い手が出てきた。

彼女がその手を読んでいた本で叩くと、
手は一旦引き出しに引っ込んで、
血がなくなった綺麗な状態で再び出てきた。

すると彼女は頷いて、
青白い手に一番右側のふりかけのおにぎりを渡し、
手は引き出しに引っ込んでいった。

目が覚めて、
おかしい夢だったなと彼女を見ると、
ベッドにもたれて居眠りをしていた。

おにぎりは、
一番右のふりかけのがなくなっていた。

ちなみに、彼女は極端に神経質で、
決まった時間以外は絶対に間食をしない。

その日の夜、
彼女が帰った後も嫌な感じがして眠れないでいると、
隣のベッドの患者が、カーテン越しに話しかけてきた。

うっとうしいと思ったけど、
相手は年寄りで、
昼間も誰も見舞いに来てなかったから寂しいんだろうと思って、
小声で相手をしていた。

孫がこの春で小学を卒業する事とか、
近所の野良猫に餌をやっていたけど、
自分が入院してしまったから心配だとか、そんな話。

最後に、ジジイは妙な事を言いだした。

「あんたの連れ合いは、あれは良くない。
居心地が悪いから、もう出て行かなくてはならない」

失礼なジジイだと思って、
それ以降は無視した。

翌朝もおにぎりを作ってきてくれた彼女に、
昨夜の事があって、隣の奴はどんな奴か尋ねると、

「ここは4人部屋だけど、
○○さんの隣は入院した時からパッと見は空いてるよ。
でももう何もいない」

と。

パッと見はって…。

ちなみにその晩から、
金縛りのも嫌な感じで眠れない事もなくなった。

その後無事に退院したけど、
普段から

「見えている」
「全て分かっている」

的な事が色々あって、
頼れる彼女だけど少し怖い。

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