俺は昔自衛隊で働いていた。

お前ら間違ってもあんなとこで働いたらあかんぞ。

よっぽど運が良くないと
普通に人生狂うからな。

俺は当時若く、
今よりもっと勢いがあった。

数ヶ月の教育課程を終え
赴任した場所はとてもとても古い拠点だった。

それこそ建設から100年以上と言われるが、
そもそも軍事拠点としての始まりは
よく分からんくらい昔だったらしい。

自衛隊では全てが時刻通りだ。

ラッパの音に合わせて皆一様に行動する。

課業開始、昼休み、食事の時間。

その日はいつも通り1700のラッパを聴いて、
夕食を食べて、体力錬成をして、
時間は1900ごろだったか。

もう空は暗く、
風は冷えてきて少し爽やかな気持ちになる。

体の火照りも冷める頃、
俺は当時日課であった袋麺を調理するために
職場のコンロを借りに行った。

袋麺を夜中にこっそり職場で食べるのが好きだった。

なんだかできる男になった気がするんだ。

重要書類を見ながら飯を食って、
意味もわからんがたまに頷いたりする。

それが好きだった。

袋麺の汁まで飲み干し、
自分のではない深皿を洗って拭いて
証拠を隠滅したらすぐに電気を消す。

真っ暗な建物は自分の曾祖父よりも年上の建築物で、
貧乏な自衛隊ならではの誤魔化し誤魔化し運用だ。

蝶番の代わりに
バネとビスで引き留められている扉を開け、
悲鳴のような扉の音を暗闇で聞いて、正面玄関に向かう。

古ぼけた窓から照らす
ほんのりとした月明かりだけが頼りだ。

一歩床を踏むごとに床は大袈裟に軋む。

その辺に散らばる軍需用品やら大型コンテナを避けて、
月明かりに向かって進んでいく。

が、途中で足音が聞こえる。

同じ空間からだ。

1人や2人じゃない。

これは小隊規模、
編上靴で行進している、どこへ?

向こうも気付いたのか、
足音は一斉に止む。

静寂の後、小隊は方向を転換した。

こちらへ向かうために、
教練動作に則り動き出した。

そう感じる、そんな音だった。

やばい。正直心臓は破裂寸前で、
全力で走って逃げたかった。

頭の中もぐちゃぐちゃで、
張り裂けそうなほど恐怖していた。

その時なぜかふと先輩の教えを思い出した。

「お前の感情はどうあれ、
前だけ向いて必要な事を成し遂げろ」

全く言葉そのままの文では無いが、
要はそういう言葉だ。

振り向かない。
前だけ向け。
何も感じるな。

自分に言い聞かせてかなり足速に歩いた。

出口の大扉は目の前だ。

高さ5m以上、10トン近くある鉄製の大扉を力づくでねじ開け、
至って冷静であるかのように振る舞いながら
ほんの少しの隙間に体をねじ込む。

その瞬間耳元ではっきり、舌打ちが聞こえた。

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