ウチのばーさんは、
神奈川のある寺の参道脇で甘味屋をやっていた。

そのばーさんがまだちゃんと若かった時の話らしい。

その甘味屋には困った客が月一で来る。

鹿だ。

寺は山の中に在って、
その山からは今でも普通に鹿が降りてくる。

問題の鹿は決まった日時に来る訳ではないのだが、
大体月一で店の前にやって来ては、

店先にある土産物のタニシの佃煮をかっぱらっていったそうだ。

それに腹を立てたばーさんは、
今度来たらその鹿の尻でもひっ叩いてやろうと、
ホウキを玄関に置いて毎日を過ごしてた。

そんでもって鹿はその気配を察し切れずに、
夕方に普段通り佃煮を取りにきた。

ホウキを手に取り、鹿を追うばーさん。

袋詰めの佃煮をくわえ、ばーさんから逃げる鹿。

一人と一頭は参道を駆け下りが、
麓の橋の手前でばーさんは鹿にまかれた。

まだ近くに居るかもと、
ばーさんは辺りを探してみると、
橋の近くにある神社の鳥居の内側に、
佃煮の袋が中身ごと捨ててあった。

ばーさんは袋を店頭に戻すか迷ったが、
鹿のヨダレまみれになっていたので、
お賽銭替わりに賽銭箱の上に置いていった。

次の月も鹿は来て、ばーさんは追った。

そしたら、また神社の中に捨ててあった。

もしやと思い神主さんに聞いてみると、
毎月鳥居の内側に佃煮が捨てられていたそうだ。

「鹿は多分、お賽銭替わりに佃煮を供えていったんだろうけど、
供えるんだったらウチの佃煮じゃなくて、
山の木の実にでもしてくれればいいのに」

と、ばーさんは笑ってこの話をしていた。

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