自分が地方の大学生だった頃の話。

友人のタケ(仮名)が中古車を手に入れた。

自分たちが住んでいたのは田舎だったので、
車が無いと不便ではあったが、
まだ2年生だった自分たちの中で、
車の所有率は高くなかった。

タケは嬉々として、
毎晩のように自分たちを誘ってドライブを楽しんでいたのだが、
ある日、一緒のチームで実験をしている最中、

「今夜は霊園に行ってみないか?」

と誘ってきた。

俺の他に誘われたのは、
同じチームのサダ(仮名)。

気は優しくて力持ち、
東北出身の純朴な青年で軽く霊感持ち。

俺もサダもそういうことは大好きだったので、
喜んで誘いに乗ったのだが、
これを同じチームのエディ(仮名:純日本人)が聞いていた。

こいつがちょっと面倒なヤツで、
浪人と留年のせいで自分たちより3歳ほど年上。

そして何を勘違いしたのか、
自分が学年の有力者として慕われていると思っており、
自ら名乗るエディという愛称を、
嘲笑混じりに呼ばれ疎まれたりしていた。

そして、何よりも迷惑なのが、
『自称霊感のある人』だということ。

「おい、オマエら霊園行くのかよ?」

「え、ええ。まぁ・・・面白そうなんでちょっと・・・」

タケが(しまった)という顔で答える。

「あそこはなぁ、マジでヤバいって!
先輩の○○さんが事故ったのもあそこに行った後・・・」

散々、
知ったかぶりの講釈を垂れた後、
エディは言った。

「ま、何かあったら俺が何とかすっからよ。
用心しながらついてこいよな!」

俺たちがまだ何も言ってないうちから、
エディは勝手に同行することになっている。

それに、連れて行くのはタケなんだが。

俺たちは無碍に断ることもできず、
その夜は4人で霊園に向かうことにした。

夜8時、
タケがそれぞれのアパートに迎えに来てくれ、
大学近くの定食屋で夕食をとる。

そして4人を乗せた車は霊園に向けて出発。

この霊園なのだが、
大学前を通る県道を町のはずれに向けて走っていくと、
小高い山の中腹にぽつりと位置している。

正面のゲートを抜けると駐車場があり、
その奥に斎場と管理事務所の建物、
それを取り囲むようにロータリー状のアスファルト道が一周し、
道の外周に墓石が建ち並ぶつくりになっている。

ここは昼間は見晴らしも良く、
取り立てて嫌な雰囲気があるわけでもない。

だが、全国どこにでもあるように、
この霊園にも『ジンクス』があり、
大学の地元では心霊スポットとして有名な場所でもあった。

それは、

『深夜にロータリーを3周してクラクションを鳴らし、
ライトを消すと・・・』

というありふれたものだ。

学内ではそれをやったOBが事故にあっただの、
霊に取り付かれたなどということがまことしやかに噂されており、
自分も入学した当初、先輩などから散々聞かされていた。

俺たちは食事の最中から
エディの薀蓄や講釈に軽くうんざりししたり、
彼が首から提げている怪しげな数珠に笑いを堪えたりしながら
30分ほど山道を走り、
霊園へと続く分かれ道に差し掛かった。

「・・・結構いるね」

エディが真顔でつぶやく。

ほら、はじまったよ。

他の3人は同じようなことを思っていた。

夜間も開放されているゲートを抜け、
車はゆっくりと墓石の並ぶロータリーを進んだ。

「おい、見えるか?
悪意のある霊じゃないけど、あそこの木の陰とか・・・」

後部座席で『霊感』を発揮するエディ。

俺は助手席で笑いを堪えるのに必死だった。

タケはロータリーを3周し、
斎場正面に車を停めた。

「いいっすか?いきますよ」

タケはクラクションを鳴らし車のライトを切った。

真っ暗な車内に沈黙が流れる。

サダがごくりと唾を飲み込んだ音がした。

そのとき・・・。

「ヤバい!タケ!車出せ!!」

突然エディがわめきだした。

「え?どうしたんですか?!」

「いいから早く出せ!来てる!!」

周囲を見回したが俺には何も見えなかった。

タケは言われるままアクセルをふかし、
車を急発進させる。

「いるか?」

俺はタケに訊いたが、
彼も全く見えてはいないようだった。

後部座席を振り返ると、
わめきちらすエディの横でサダが硬直していた。

「早くしろ!来てるってば!いっぱいいるんだよ!!」

エディは後ろを振り返りながらパニックになっていた。

そして数珠を握り締めながら九字を切ったり、
お経のようなものを唱えたりしていた。

なにこの出鱈目・・・

俺は素人ながらも冷めた目でエディの様子を見ていたが、
それでも狂ったように何かを唱えるその姿には怖くなってきた。

隣のサダもエディの姿に恐怖を感じていたのか、
ドアに体を寄せ、
必死で距離を置こうとしているようだった。

ハンドルを握るタケも必死だった。

咥えたタバコに火を点けることすら忘れ、
タイヤを鳴らしながら車を走らせた。

ようやく町の灯かりが見え始め、
タケはスピードを落とし、
コンビニの駐車場に車を入れた。

「マジヤバかったなぁ」

大きく肩で息をしながらエディが言った。

「クラクション鳴らしてライト切った途端、
いろんなとこからワラワラ出てきたんだぜ」

「俺、ぜんぜん見えてませんでしたけど、
かなりいたんですか?」

俺はエディに尋ねてみた。

「馬鹿!オマエ、
あんだけいたのに何も見えてなかったのかよ!
2~30人はいたけどよ、
あの中でも特に鎧の落ち武者みたいなのが・・・」

ひとしきり、
どれだけヤバかったのかを語ると、
エディは得意気に言った。

「何とか俺が○○経唱えて式も打ったからよ、
無事に帰ってくることができたわけだな」

俺とタケとサダは顔を見合わせ、
とりあえず

「お陰様でした」

と言うしかなかった。

俺たちはコンビニで飲み物を買い一息ついた後、
そこから一番近いエディをアパートへ送っていった。

エディは意気揚々と部屋に引き上げ、
ベランダから俺たち3人を見送った。

タケはエディを送り届けた後、
さっきまでのことを語りたかったらしく、
俺の部屋で飲もうということになった。

3人は再びコンビニに寄って酒とツマミを買い、
俺の部屋で安堵のため息と一緒にビールを開けた。

「で、本当にいたわけ?」

タケが尋ねる。

「いや、何も。
でも、エディのパニックがマジで怖かったよ。
狂ったのかと思った」

俺は笑いながら答えた。

「サダは何か見えたの?」

タケの問いにしばらくの沈黙の後、
サダが口を開いた。

「・・・うん、いたね」

「マジでマジで?!」

霊感ゼロの俺とタケは興味深々で食いついた。

そしてサダはぽつりぽつりと語り始めた。

「あのさ、エディさんは2~30人とか言ってたけど、いたのは1人。
あの人にはいっぱい見えてたのかもしれないけどね。
でも、俺に見えたのは一人だけだったよ」

「例の落ち武者?」

俺が尋ねるとサダは首を振った。

「いや、そんなのはいなかった。
だって、この辺ってそういう話聞いたことないし、
昭和になってから初めて造成された土地でしょ?
落ち武者は考えられない。
俺が見たのは女の人だった・・・」

「どんな?」

「よくわかんないけど、
不自然に首の長い女の人。
髪が長くて・・・」

「それが車を追ってきてたわけ?」

「ううん、追いかけてきてるんじゃなくてさ・・・」

「?」

「エディの横に座ってた。
すげえ気持ち悪くてさ、
お経唱えたりしてるエディをずっと見てたよ。
ニタニタ笑いながらキチガイみたいな表情でね」

俺とタケは凍りついた。

「・・・まさか、ずっと車にいたの?」

「ううん、
コンビニに着いたときにはいなかったよ」

サダはビールの缶を握りながら言った。

「でもさ、部屋にいた。
エディがベランダから手を振ってたじゃん?
その後ろにその女がいたよ。
やっぱり首が異様に長くて、
身長も2mくらいあった」


以上、大学のときの話でした。

読みづらくてごめんね。

その後、
タケとサダはウチに泊まって飲み明かすことにしたんだけど、
夜中の3時くらいにエディから電話があって、

『眠れないから遊びに行っていいか?』

ということで、
ヤツもウチに来たのよ。

その後は、
朝までエディの武勇伝的な話に付き合わされたんだけど、
やっぱり、自分の部屋で『何か』を感じて気味悪くなったんじゃないかな。

とりあえず、ウチでは何の異変も無かったし、
その後もエディの身に何か起こることはなかったよ。


ネタとして軽くエディのスペックを列記すると、


・威勢はいいが、喧嘩は弱いらしい。

・権力のある者に弱い。

・サーフィン同好会に所属していたが、
丘サーファー。

・「何かあったら俺に言え」が口癖。

・実家は某地方の権力者。

・見栄を張って都内の親戚名義で某区ナンバーの車を買うが、
大学近くのヤンキーにボコボコにされる。

・エディ(仮)という呼称は、
好きなギタリストにあやかって、
周囲に無理矢理そう呼ばせていた。


仲間として付き合うと面倒だし、
かなりイラッとさせられるけど、
観察対象としては興味深い人でした。

後にダブって自分より下の学年になったけど、
今ごろどうしているやら。

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