小学生の頃の話。

早朝に山へ出かけて、
ネマガリタケというタケノコを採っていると、
まだ背の低かった俺は方角を見失ってしまった。

この竹(本当はチシマザサって言うらしいけど)は背が低いけど、
ものすごい勢いで群生して生えているので、前に進むのも容易じゃないし、
生えている場所が急勾配で、とても歩きにくい。

竹林の中で途方に暮れていると、
竹林の奥から「ハァッハァッ」という、
危ないオッサンか野犬の息づかいのような音が聞こえてきた。

薄暗い竹林の中で俺がビビりまくっていると、
目の前に茶色い体をしたオオカミみたいな動物が姿を現した。

見ると、
顔はひしゃげた子供のような顔で、
鼻と耳がなかった。

俺が死ぬほど怖がっていると、
その動物はびっくりしたように俺を見つめた後、
「まったく、ついて来い」と、
ものすごく乾いた子供のような声で言った。

普通なら絶対について行くわけがないんだけど、
恐怖よりも『ついて行かなくちゃ』という気持ちの方が強くて、
その動物について行った。

途中、竹林の中に小さな小川があって、
それを飛び越えると、
本当にその途端に俺は竹林の外に出ていた。

背後でガサガサと音が聞こえたので見ると、
その動物の尻尾が竹林の中にとけ込むように消えていくところだった。

とりあえず
「ありがとうございました」
と頭を下げた。


ちなみに、
親父はタケノコをリュックいっぱいに採ってきて、
俺の話を聞くと
「感謝しておけ」
と頭をクシャクシャやられた。

そして、
採ったタケノコの3分の1とおにぎり1つを
竹林の前に置いて帰路についた。

微妙にセコいお礼だった。

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