西洋の怪奇短編集の編者あとがきで読んだ話。

うろ覚えでごめん。(本のタイトルも失念)

編者の高校の漢文の先生が若いころ、
散歩の途中で一匹のナメクジが、
じっと前方の樹を見つめているのを見つけた。

はて、こいつはどうしようというんだろうかと見ていると、
いつの間にかナメクジの体の周囲に靄のようなものが立ちはじめ、
やがてナメクジは靄の中に隠れて見えなくなった。

どうなるのかとなおも見つめていると、
靄の中から一条の細い光の糸のようなものがするすると伸びて、
その先端が前方の樹の幹に達した。

ふと見ると地面にいたはずのナメクジが消えており、
いつの間にか樹の幹に移動しているではないか。

「ほう、知らなかった。
ナメクジはこうやって移動するものなのか」

と先生は感心したが、
そのことを他人には言わなかった。

それから何年も経って、ある寄り合いで

「錯覚だったのかもしれませんが…」

と、若いころの自分が見た話を披露した。

寄り合いが終わり、帰りかけると、
参加者の一人が先生のところに来てこう言った。

「ナメクジの話をされましたね。
だれにも話していないんですが…
実はそれ、私も郷里で見たことがあるんです…」

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