40年以上前の話だそうだ。

知人から聞いた話なので、詳細は不明。

まあ、あまり深く知りたいとも思えな種類の話だ。

九州のとある離島。

といっても、
何という島かはすぐに分かるんだが、
とりあえず伏せておく。

その島に海老の養殖場が造られることになった。

大規模なもので、
工事期間は一年近く及んだ。

その間、かなりの事故や人災が起きた。

建設現場で働く人々も、
これは何かあるなと思っていると、
案の定多数の人骨らしきものが出てきた。

それはかなり古いもので、
埋葬もされておらず、
打ち捨てられ朽ち果てたものだったらしい。

何か歴史的な経緯があったのだろうが、
出資者や建設会社は具体的な調査もせず、
そのまま工事は続行された。

ただし、不安に包まれた現場の空気を察して、
ある徳の高い僧侶が招かれ、祈祷供養することになった。

一昼夜にわたる祓い清めの最中、
その僧侶は己の力不足と、
加持による恒久的な慰霊を勧めたそうだ。

曰く、

「ここには一族郎党を屠られた怨みの念が強くある。
その一族の長を弔わねば、
災いがなくなることはないでしょう」

それを聞きつけた関係者は、
やっぱりと思ったそうだ。

地鎮祭の時、
神主の振る榊がまっ二つに裂けたという。

大幅に工事は遅れたものの建物は完成し、
何とか養殖所の操業が始まった。

あいかわらトラブル続きで、
事業はうまくたちいかない。

融資者の何人かは、
説明のつかない災難に見舞われたりしたそうだ。

そして養殖場の中では、
いくつもの幽霊が徘徊した。

事務所、冷凍工場、養殖池、至る場所、
昼夜を問わず幽霊は出現したらしい。

そこで働く従業員のうち、
そういう現象に慣れる者もいた。

手首に数珠を巻き、
出くわしたら両手を合わせる。

そんな光景があたりまえになった頃、
やはり、どうしても馴染めぬ人たちもいた。

内地から泊りがけで勤務する警備員は、
特にそうだった。

当時、その知人は地元でフリーターをしていた。

ちょうど仕事が切れた頃、
割のいい警備員のバイトを見つけた。

配置先がその養殖場だったというわけだ。

「幽霊を見たからって、何があるわけじゃない。
ただ、気味悪いだけだと思ってた」

知人の仕事は敷地内の巡回警備と、
建物の入管チェックだったが、
その他にも重要な仕事があった。

それは、深夜に頻発する電源トラブルの復旧作業だった。

海老を冷凍保存するための設備が、
原因不明の停電を起こす。

その際、
設備の分電盤に行ってブレーカーを戻したり、
制御盤のヒューズを交換するというものだった。

「でも気になってたよ。
背筋がぞくっとくるのがさ。
あれって人間の本能的な反射だろ。
危険を感じた時なんかのさ」

知人が冷凍工場のトラブルに対処する際、
常に二人で行動した。

そして、工場内のとある場所で、
必ず二つの幽霊を目撃したそうだ。

一つは、通路の曲がり角をすっと横切る姿。

もう一つは、
機械室の扉を開けるタイミングで、
ぼーとあらわれる着物を着た男。

「何度も遭遇して、
場所もタイミングも分かってるんだけど、
ぞぞってくるんだよな。
俺の本能が危険を知らせてるのかと思ったね」

同じバイトだった知人の同僚は、
勤務して三日目に高熱を出し、
耐え切れずに仕事をやめたそうだ。

「そいつがいなくなってから、
曲がり角の幽霊がぱったり現れなくなった。
たぶん、幽霊がそいつに取り憑いて、
一緒にどっか行ったのかもしれないな」

そんなことを考えていた知人は、
ある時、気味の悪い妄想を払拭できなくなったという。

「つまり、幽霊が成仏するとしてさ…
誰かの死に便乗?みたいなことするんじゃないかってね」

知人はその考えに囚われて、
仕事を続けられなくなったそうだ。

「俺も馬鹿げた考えを否定したくて、
いろいろ聞いて回ったんだが、
やっぱり因縁はあるんだよ」

その島は、
鉄砲伝来の地であるということ。

そして、刀狩や鉄砲禁止令によって、
一つの技術者集団が歴史から抹殺されたこと。

知人は、
何ら確証があるわけではないと断りをいれながら、
自分が目にした幽霊の姿や振る舞いから、
そんな風に想像したのだと語った。

「技術大国の日本が、ロケットの打ち上げに失敗するだろ。
そのたびに、何か非科学的な妄想にとらわれるな」

そう言えば、
あの島には衛星打ち上げの基地があった。

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