昔、不思議な体験をした。
僕は当時大学生で、
3つ年下で高校生の弟がいた。
弟とは幼いころからとても仲がよく、
よく2人で遊んだ。
成長しても心が離れるということは無かったと思う。
当時僕は一人暮らしをしていたが、
秋も終わりに近づいた頃、
母親から電話がかかってきた。
どうやら弟が、
いわゆる交通事故にあったらしい。
しかも容態は思わしくないようだった。
僕はすぐに病院へ向かった。
その後、
手術だとか検査だとかいろいろあったが、
結果的に弟は助かった。
しかし、弟の意識は戻ることは無かった。
それでも僕は、
いつか弟が目を覚ますものだと考えていたので、
ほぼ毎日見舞いに来ていた。
その日もいつものように弟のもとへいった。
すっかり外は寒く、日も短くなっていた。
病室にいくと、
弟はやはりいつものようにベッドの上で眠っていた。
悲しいことに僕は、
この光景に慣れていてしまっていたのだ。
そして弟が眠っているのだと思い、
部屋の電気を消し、一旦僕は部屋を出た。
僕はトイレに行き、
再び病室へ戻ると、僕はひどく驚いた。
弟が立ち上がっていたのだ。
立って窓から外の景色を眺めていたのだ。
しかし、僕が声をかけても弟は反応せず、
外の世界をずーっと眺めていた。
僕は弟の横に立って顔を覗いた。
街からの仄かな灯が照らす弟の顔はひどく穏やかだった。
いくらかした後、
僕は弟を抱えベッドに運んだ。
弟は再び目を閉じた。
弟のまつげは涙で濡れていたようだった。
その後、再び弟は目を覚ますことは無かった。
数日後、弟は死んだ。
僕は死因を聞いた。
親は容態が急変したと言ったが、
医者は心不全だと言った。
弟の顔を見ると、
あの夜と同じような穏やかな顔をしていたことを
鮮明に覚えている。
何故か…どうしてか分からないが、
悲しいという気持ちにはならなかった。
なのに涙だけは止まらなかった。
今でもあの夜のことを思い出すことがある。
穏やかな顔や涙。
それはなんらかの奇跡の一種かも知れないし、
あるいは脳に何らかの障害があったのかもしれない。
どちらにせよ、
そのことを考えるとひどく切ない気持ちになる。
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コメント
コメント一覧 (5)
弟さん穏やかな顔で逝ったなら幸いよ、あなたの喪失感は慰めようも
ないけど思い出したときに心の中で手を合わせればいいらしいよ。
兄は目覚めて欲しくなかった?。
弟の死にも兄が関わっている気がする。