俺、よく1人で海外旅行するのが好きで、
同じように1人来てる旅行者と仲良くなって現地で遊んだりするんだけど、
その時もフィリピンの露店のバーみたいな所で
仲良くなった韓国人から聞いた話。

そいつは爽やかでKPOPと言うよりかは
チャン・ドンゴンみたいなさっぱりしたイケメンだった。(以下D)

フィリピンの茹だるような暑さに相まって、
話をしてると段々と怪談にシフトしていった。

Dが

「君が怖がらないなら僕の体験話してもいい?」

ともったいぶるので、俺は

「是非!是非!」

と伝えると、
苦笑いしながらDは語りだした。

Dが大学生の頃に
徴兵で実際に北朝鮮との国境の森だか山だかで
警備の仕事に任された。

その国境は極稀に脱北者が逃げて来たり、
不審な往来者が居たりと
夜間でも2人態勢で森の中を巡回するらしい。

そしてその日も
同じ隊の仲良いやつと一緒に巡回してた。

国境とは言っても
夜中は山道で灯りは数km離れた駐屯地以外には存在しないような
静かでヘッドライトが無いと一寸先も見えない真っ暗な森の中。

いつものように
相方と軍隊の厳しい上司達の愚痴をこぼしながら歩いてた。

すると、
その時女性のすすり泣く声が聞こえた気がした。

相方と顔を合わせ、

「今の聞こえた??」

とお互いに目配せをし、
声の方向を見た。

誰も居ない。

風に揺られるだけの草原しかない。

Dは相方と

「風の音なんじゃね?」

なんて話しをして、
ぼちぼち駐屯地の方へ戻ろうとした所、
今歩いてきた草原からガサガサと音がした。

2人とも飛び上がるのを堪え音のした方を見る。

すると後ろからものすごい勢いで
ドタドタドタドタッと動物の足音が迫ってくるのが分かった。

「本当に今でも振り返った事を後悔してるよ、
あの時に振り返らずにそのまま帰ってたらって…」

と話すDのビールグラスは震えていた。

振り返ったD達が見たのは
首、両手首、足首の無い、
男か女かも分からない”モノ”が肘と膝を地に付き、
四つん這いで2人を目掛けて走ってくる。

鮮血で塗れた白い民族衣装を振り乱して。

首が付いていたであろう場所からは
悲鳴のような息遣いのような音を出しながら。

2人は抱き合いながら大声をあげ、
大慌てで今まで来た道を走った。

お互いに腰を抜かしながら
一目散に走っていたが途中でどちらかが躓き2人とも転んだ。

後ろからは自分たちを追う足音が迫ってくる。

そんな中ふと自分達の頭上を見上げた。

D「は?」

自分達の頭上で
ボールのような球体が回転しながら浮いている。

月明かりに照らされたそれは
女の首だった。

それは2人の事を睨みつけながら、
でもニタニタと禍々しい笑みを浮かべながら
こっちを見下ろしていた。

Dは気を失う寸前で

「もうだめだ」

と思い、目もつぶりながら
思わず自分が持っているライフルでその首に向けて発砲した。

耳をつんざくような銃声とともに
あたりは静寂に包まれた。

目を開けてみると
そこには何もない。

2人は真っ青になりながら戻っていた所に、
銃声を聞きつけた他の隊の仲間が様子を見に来た。

今までの経緯を話すも、
しどろもどろとなり、
とりあえず仲間達につれられ
上司に報告することとなった。

D「ヤバイ、上司にぶっ飛ばされる!
こんな経緯話したら病院送りにされる!」

などと考えながら生きた心地もせず
上司の部屋につく。

もうこの際どうでもいいと思ったDは
上司に包み隠さず体験したことを話した。

上司は話を聞いていて
終始呆れた顔をしていた。

話終わると上司は呆れた顔でこう言う。

上司「わかった。
もう部屋で休め、明日はしっかり休むように。以上」

D「へ?明日は作業があるのですが…」

上司「毎年毎年いるんだお前みたいな奴が。
夜中に勝手に発砲する奴が。
そいつ等に聞くと揃いも揃ってお前と同じ体験を語るんだ。
それを毎回上層に報告する俺の身になってみろ」

D「…」

上司「この話は他の奴には絶対に言うなよ。
帰って寝なさい」

いつもは鬼のように厳しい上司から
そんな言葉が出るとは思ってもいなかったDと相方は
鳩が豆鉄砲食らったような顔で部屋を後にした。

Dと相方は自室に戻り、
強引に俺たちは疲れてたんだってお互い言い聞かせるようにして、
床についた。

Dはその後兵役を終え、
現在ではフラリフラリと色んな国でアルバイトをしたりして
生活してるんだと。

俺が死ぬほどビビってるのも関係なく
Dは最後にこう付け足した。

D「多分、アレって脱北に失敗してしまった人だったんだよ…
せめて魂だけは南にいきたかったんだろうな…」

それを聞いた俺はビビリすぎて
盛大にグラスを割ってしまった。

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